歌麿、写楽、北斎、京伝、馬琴、一九を育てた名ブロデューサー・蔦屋重三郎とは・・・【山椒読書論(822)】
『蔦屋重三郎と江戸文化を創った13人――歌麿にも写楽にも仕掛人がいた!』(車浮代著、PHP文庫)のおかげで、蔦屋重三郎について理解を深めることができた。
著者は、浮世絵師の喜多川歌麿、東洲斎写楽を世に出し、売れない上に勝川派を破門されかかっていた葛飾北斎に手を差し伸べた蔦重(蔦屋重三郎)の抜群のプロデュース力を高く評価している。
蔦重は、浮世絵師に止まらず、戯作者の山東京伝、曲亭馬琴、十返舎一九も育てた。
面白さを追求するあまり、幕府に目をつけられ、身代半減などの痛手を被りながら、それでも蔦重は挫けず、歌麿の「美人大首絵」や絵解きクイズ「判じ絵」などを流行らせた。
『南総里見八犬伝』で知られる馬琴は、蔦重のことを、こう評している。「蔦重は学識がなく、文化的素養を持っていたわけではなかったけれど、人一倍の才覚は持っていて、当時いた多くの賢者たちから愛された。その結果、出す本がことごとく時代のニーズに合致し、一、二を争う版元としてのし上がった」。お客は何を求めているのか、よく目を凝らせば、ヒントは至る所にあると、蔦重は考え、実行に移したのである。
1797年、蔦重は脚気のため、47歳で死去。
蔦重の墓碑には、蔦重の狂歌の師である宿屋飯盛により、「意欲的で叡智に優れ、気配りができ、信用できる人物である」と記されている。
本書では、蔦重だけでなく、歌麿、北斎、北尾重政、勝川春章、鍬形蕙斎、一九、朋誠堂喜三二、京伝、馬琴、恋川春町、四方赤良(大田南畝)、飯盛、写楽についても解説されている。
謎の絵師・写楽の正体については、能役者・斎藤十郎兵衛が似顔絵を描き、それを別のプロの浮世絵師がサポートするという、蔦重による「写楽プロジェクト」だったのではないかと、著者は考えているようだ。
この一冊で、2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう――蔦重栄華乃夢噺』を楽しむ準備はバッチリ!