榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

赤川次郎が30代半ばに書いた読書の勧め、歴史学習の勧め・・・【情熱的読書人間のないしょ話(104)】

【amazon 『三毛猫ホームズの青春ノート』 カスタマーレビュー 2015年6月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(104)

散策中、あちこちでムクゲの花に出会いました。一日花で、いろいろな色のムクゲがありますが、その涼しげな花の佇まいが暑さを一瞬忘れさせてくれます。因みに、本日の歩数は13,937でした。

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閑話休題、なぜか急に、同年代の作家・赤川次郎が30代半ばに書いた『三毛猫ホームズの青春ノート』(赤川次郎著、岩波ブックレット。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を読み返したくなってしまいました。

本書は小説ではなく、彼の半生記+読書論です。私は、以前から彼の率直な語り口が好きです。「読む力の衰えは感じます。30代半ばでこんなこと言っていちゃいけないのでしょうが、学生時代、読み始めたとたん、文庫本が絶版になって、結局読みそこなったプルーストの『失われた時を求めて』(文庫本で13冊もあった!)は、大きな本で全巻を買って来てすでに3年近く。未だに読めないままです」。

友との出会い、本との出会いについて語っています。「――一冊の本との出会いは(特に優れた本の場合は)、一人の人間との出会いに等しい価値を持っています。僕は中学高校と通った桐朋学園での6年間で、何人もの親友を得ましたが、同時に、何十、何百の活字の友人たちに出会いました。人間の親友に出会うには、幸運も必要ですが、活字の友人たちは、捜して求めて行けば、親交を結ぶことができます。手帳に並んだ活字の友人たちを眺めていると、もしこの友人たちに出会うことがなかったら(もちろん作家になることもなかったでしょうが、それは別として)、人生はどんなに寂しいものになっただろうか、という思いがします」。

影響を受けた作家と作品についても述べられています。「この小説(高校1年から2年にかけて書いた騎士物語――未完に終わった1500枚くらいの大長編)を書くきっかけになったのが、このころ熱中していた、シュテファン・ツヴァイクの、『マリー・アントワネット』(岩波文庫)でした。僕に、小説を書くきっかけを与えたのが、コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』なら、小説を一生書き続けようと決心させたのが、シュテファン・ツヴァイクです。・・・そしてこの自伝(『昨日の世界』)の中の言葉、『人間は、その筋肉においておろそかにしたものは、後でもなお取り戻すことができる。・・・年若くして、魂を広く拡げることを学んだ者のみが、後に全世界を自己の内に捉えることができるのである』を、手帳に書き抜いては、そうだ、その通り、と肯いていたものでした。もちろん、ツヴァイクに熱中したのは、その境遇が羨しかったからでなく、小説が面白かったからです。フロイトに学んだツヴァイクの短編小説はどれも、人間の情熱の一瞬を、熱に浮かされたような迫力のある筆致で捉えています」。

今でも忘れられない、心に残る授業に言及しています。「この先生の(世界史の)授業は、大変にダイナミックでした。いや、別に大げさだっというのじゃなくて、歴史の『動き』を、何とかして生徒に伝えようという情熱があったのです。もっとも、生徒の方に、受け止める情熱があったかどうかは少々疑問でしたが・・・。ともかく、熱のこもった授業は、僕の心を捉えて離しませんでした。――この先生のおかげで、歴史に興味を持つようになったのだから、やはり先生の影響というのは大きなものです」。

「文章力、表現力は、どんな職業においても、必要なことです。いや、職業についていない主婦の方々でも、意をつくした手紙を一本書く能力があるかないかでは、ずいぶん生活の幅が違って来るでしょう。どんな社会であれ――たとえエレクトロニクスの最先端の研究所に勤める人でも――そこには昔ながらの人間関係があり、喜怒哀楽の日々があります。言葉を知っていること、自分の考えを表現できること。――学生生活で、ここまでは身につけておくことが必要ではないかと思います」。

「そしてもう一つ、僕が今、若い読者の方々と会ったときなどにお願いしているのは、『歴史を勉強して下さい』ということです。今日、世界で起っていることは、昨日の事情を知らなければ理解できません。昨日を理解するにはさらにその前のことを・・・。結局、今の社会に起っていることは、何百年――ことによったら何千年の歴史の『つづき』なのです。連載小説を途中で一回だけ読んだって、面白くも何ともないように、今の世の中をよく見通すには、長い歴史をさかのぼって知っておくことが大切です」。

赤川の読書に対する考え方、歴史に対する考え方、そして情熱重視の姿勢に大賛成です。