榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

27年ぶりにニューヨークに滞在して感じたこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(177)】

【amazon 『ニューヨークより不思議』 カスタマーレビュー 2015年9月22日】 情熱的読書人間のないしょ話(177)

埼玉県・川越で江戸情緒が残る蔵造りの町並みを歩いてきました。時の鐘が青空に映え、蔵造りの和菓子屋で女房が目当ての菓子を探しています。これまで訪れた時は気がつかなかった太田道灌の銅像をカメラに収めることができました。道灌は文武両道に秀でた私の好きな室町時代の武将ですが、主君・上杉定正に妬まれ、謀殺されてしまったのです。因みに、本日の歩数は14,649でした。

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閑話休題、初めて四方田犬彦の作品を手にしました。『ニューヨークより不思議』(四方田犬彦著、河出文庫)は、著者が27年ぶりのニューヨーク滞在で感じたことが綴られたエッセイ集です。

「個性的な品揃えとプログラムによって評判を呼んでいた書店と映画館がなくなっていくという傾向において、ニューヨークと東京は残念ながら確実に軌を一にしていた。その点では、パリだけが例外だった」。

「そうか、マンハッタンがジェントリフィケーション、つまり整理整頓された管理空間と化していくのと裏腹に、イースト河を隔てた広大なブルックリンでは、公共の管理を逃れた領域で文化の活性化がなされようとしているのだ。わたしはそのような印象を受けた。ここにはまだツーリズムや商業主義の回路に組み込まれていない、地域住民の地縁共同体が構築できると考えている若者たちが存在している。彼らの動きはまだ小さなものかもしれないが、いずれそこから予想もつかなかったアートや文学、音楽が登場してくるのかもしれない」。

「『わたしはまだ生きています』。河原温はいつも絵葉書の裏にそう書きつけていた。これは一人の語る主体が口にすることのできる、究極の言葉である。この言葉に拮抗できるのは、19世紀パリに生きた詩人マラルメが友人カザルスに宛てた手紙にある、『わたしはもう死んでいる』という言葉しかない、だが同時に河原温のこの言葉は、語り手の恐るべき孤独を示しているようにも思われた」。

私の知らない世界、接したことのない領域の話題が多く、しかも、著者独自の感じ方、考え方が率直に語られているので、いろいろなことを学ぶことができました。