榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

夫を愛していながら、自ら売春婦になった医師夫人の謎・・・【情熱的読書人間のないしょ話(357)】

【amazon 『昼顔』 カスタマーレビュー 2016年4月19日】 情熱的読書人間のないしょ話(357)

千葉の柏・流山・野田を流れる利根運河沿い、12基の古墳が残る東深井地区公園、野草の宝庫・理窓会記念林自然公園を巡る野草観察会に参加しました。アミガサタケが見つかりました。オオシマザクラの葉は桜餅に用いられます。イヌザクラは莟を付けています。我が名字「榎戸」に縁の深いエノキ(榎)の花、星形のウグイスカグラ、ミツバアケビ、フデリンドウ、葉が徳川家の家紋・三つ葉葵のモデルとなったフタバアオイ、ヒレアザミ、タチイヌノフブリ、イヌムラサキ、ムラサキケマン、ジロボウエンゴサク、キランソウなど春の花をたくさん観察することができました。因みに、本日の歩数は22,847でした。
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閑話休題、若い時分に読んだ『昼顔』(ジョゼフ・ケッセル著、堀口大學訳、新潮文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)のヒロインの行動は、当時の私にはどうしても理解不能でした。なぜか、若く大柄で個性的な美女、セヴリーヌ・セリジーは大病院の外科医である夫を深く愛していながら、自ら売春婦になってしまうのですから。

年齢を重ねた今の自分ならセヴリーヌの心理・行動が理解できるかもしれないと、32年ぶりに再読してみました。読み終わって、彼女の愛情と肉体的欲望の乖離は、確かに珍しいケースではあるが、主人公が女性だから奇異に感じるのであって、これが男性だったらそこまで不思議ではないのではと思い至りました。

「彼女は知った、自分が(客の)アンドレを拒んだ理由は、あの若者が肉体的にも精神的にも、日常の生活で、彼女が接近する男たちと同じ階級、(夫)ピエールと同じ階級に、属しているからだと。アンドレとなら、彼女は、自分が無上に愛しているピエールを裏切ることになるのだった。彼女は、やさしさや、信頼や、甘さや、そんなものを求めて(売春宿がある)ヴィレーヌ街へ来たのではなかった。彼女が求めているものは、夫が与ええないもの、つまりあのすさまじい獣的な喜びだった。気品や、教養や、彼女の意を迎えようとする下心や、こうした種類のものが、彼女の体内の、容赦なしに踏みあらしてもたいたく、屈服させてもらいたく、馴致してもらいたく願う何ものかに抵抗して、彼女の肉体の邪魔のない開花をさまたげるのだった」。

「あの家(=売春宿)で毎日彼女が過す2時間は、他の時間とはまったく切り離された時間、別個な時間、独立した時間を形づくっていた。その時間が流れている間、セヴリーヌは、芯から自分が何者であるかさえ忘れていた。その間、彼女の肉体の秘密だけが、束の間開いたかと思うと早くもまた処女のような安息に帰っている、あの不思議な花のように、ひとりで生きていた。やがて、セヴリーヌは、自分の生活が二重だとさえ感じなくなった。彼女には、自分の一生は、かくあるべきものとして、生れない以前から定められていたもののように思われた」。

やがて、客として目の前に現れた夫の友人に、「昼顔」という名で売春婦をしていることを知られてしまいます。夫に知られたら、どうしよう――事態は緊迫の度を増し、思わぬ方向へ展開していきます。

女性が主人公だから奇異に感じるのだと、自分を無理やり納得させたつもりでしたが、やはり違和感が残る、気になる作品です。