漫画家とデザイナーの対談から、仕事の思いがけないヒントが続々と・・・【情熱的読書人間のないしょ話(378)】
東京都美術館で開催されている伊藤若冲展で、若冲作品の中で一番好きな「群鶏図」を見ることができ、感激しました。描かれた鳥獣たちが動く「鳥獣花木図屏風」のスクリーン展示は、なかなか見応えがあります。上野公園で白いドバト(カワラバト)を見かけました。昼食で立ち寄った店には、大きな壺が飾られていました。因みに、本日の歩数は14,785でした。
閑話休題、『ひらめき教室――「弱者」のための仕事論』(松井優征・佐藤オオキ著、集英社新書)は、漫画家・松井優征とデザイナー・佐藤オオキの対談集です。
漫画、デザインの世界に止まらず、さまざまな分野の仕事でも役に立つヒントが続々と飛び出してきます。
「松井=自分の才能のなさ、弱点を一回認めた人は本当に強いですよ」。
「佐藤=確かに『やりたいことがある』は、やりつくしてしまって、完結してしまう恐れはありますよね。その点、『やりたいことがない』は、かなり持続性のあるモチベーションになります。何が来ても楽しめちゃいますし」。
「佐藤=昨日まで他人事だったことを自分事にする。その切り替えの早さに関して、(僕は)才能はあるかもしれない。何でもファンになって、よいところにばかり目を向ける性質なんです。そしてそのよいところをどう伝えよう、と考えるのが楽しい。デザインのそういった側面が好きなんでしょうね」。
「松井=漫画家に求められる才能がたくさんある中で、見たことをおもしろく描く才能より、見たこともないものをおもしろく伝える才能が大事だと思っているので」。
「佐藤=『ルールを変える』。そう言うとずいぶんアバンギャルドに聞こえますね・・・。『ちょっと目線を変える』でしょうか。そうすれば、まったく新しい考え方のハート(のデザイン)が生まれてくるはずなので」。
「佐藤=クライアントの問題を解決しようとするとき、マーケティングの発想で言うと、これまでこのクライアントが何をしてきたかを確認するんです。そうやって『過去』の情報を整理しながら、一歩先の『未来』を示す。その人がいる地点の、ちょっと先を答えとして当てる作業なんですよ。でもそういう問題解決の仕方だと、過去からの流れの延長戦上でしかないので、アイデアとしての爆発力はない。大きく飛躍はできないんです。自分の理想としては、まずボーンと先を見ちゃうんですね」。「松井=少し先ではなく、何段階か後の『未来』を見る?」。「佐藤=そうです。現状の問題に対する答えではなく、先にいくつも答えを想像してしまう。Aの1、Aの2、Aの3・・・その答えの中で、一番相性のいい質問に返ってくる。向きとしては逆。ちょっと先の未来を予測して、今の課題を見つける。まず答えをイメージして、それにもっとも合う質問を逆算しているから、その問題は必ず解けるんですよ。・・・クライアントの先にある未来は、常に意識しています。理想的なのは、マーケティングの視点とデザイナーの視点があること。それが二方面から追ってくると、いろいろな答えが出てくるでしょうね」。
「佐藤=日常の中にちょっとした非日常が発生することでドラマが生まれて、楽しくなる」。
「松井=一言で説明できるものは強いですよね」。
「佐藤=そこでわかった気になる恐怖もあるんです。知らないのは怖い一方、知った気になるのはもっと怖い」。
「佐藤=自分に関して言うと、スケジューリングでしょうか。毎週この曜日だけはインプットのために設けて、討ち合わせを絶対入れない日を死守しています。その日は資料を整理したり、本を読んだりします。アイデアを吐きだしながら、どんどん取りこむのは、非常に大事なサイクルなので」。
思いがけないヒントに出会える一冊です。