ヘンゼルとグレーテルは魔女に対する強盗殺人罪か、それとも正当防衛か・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1634)】
生け花の前に佇むと、心が落ち着きます。因みに、本日の歩数は10,754でした。
閑話休題、不思議な本に出会いました。『昔話法定(Season3)』(NHK Eテレ「昔話法廷」制作班編、坂口理子原作、イマセン法律監修、伊野孝行挿画、金の星社)では、昔話の登場人物たちが現代の裁判官裁判の法廷で裁かれるのです。
本書に収められている「『ヘンゼルとグレーテル』裁判」の被告人はヘンゼルとグレーテルの兄妹です。「魔女を殺して、金貨をうばった罪に問われている」。
「裁判長の言葉に応え、検察官の奥町寿々子が立ちあがった。『はい。起訴状を読みあげます。ヘンゼルとグレーテルは、生活に困った両親に捨てられました。森のおく深く三日三晩さまよったふたりは、白い鳥に導かれ、おかしで作られた家にたどりつきました。そして、そこで暮らす年老いた魔女に保護されました。しかし、ひと月後、魔女が多額の財産を所有していることを知ったふたりは、強奪を計画。魔女を燃えさかるかまどの中におしこんで殺害し、山のような金貨をうばって、親もとへ帰りました。これは刑法第240条の強盗殺人罪に当たります』」。
「『被告人、今、検察官が読みあげた事実にまちがいはありませんか?』。裁判長に聞かれ、ヘンゼルとグレーテルは交互に答えた。『たしかにぼくらは魔女を殺し、金貨を家に持ってかえりました』。『でも、お金が欲しくて殺したんじゃありません!』。『そうです! ぼくは魔女に食べられるところだったんです!』」。
「『言語人の意見はいかがですか?』。裁判長が問うと、弁護人の里田良雄がゆっくりと立ちあがった。『魔女の殺害は、人食いから身を守るための正当防衛であり、罪に問われるものではありません。ふたりが犯した罪は、魔女を殺したあとに、<出来心>で金貨をぬすんだことだけです』」。
「(裁判員として出廷している瀬戸)香織は、証言台に立つヘンゼルとグレーテルをじっと見つめた。ヘンゼルは10歳、グレーテルは8歳くらいだろうか・・・。ふたりとも、まだあどけなさを残している。(強盗殺人か・・・単なる窃盗か・・・。そのかぎになるのは、ふたりが魔女を殺した理由だ。金貨をうばうため? それとも、自分の身を守るため・・・?)」。
その後、証人として出廷した、ヘンゼルとグレーテルを魔女のおかしの家に導いた白い鳥に対する尋問、被告人たちに対する質問、最終弁論、評議が行われました。「裁判員たちは別室に移った。これから6人の裁判員と、裁判長をふくむ3人の裁判官で評議を行う。すべての審理が終わっても、ヘンゼルとグレーテルが本当のことをいっているのか、うそをついているのか、香織ははかりかねていた」。
この昔話の登場人物を現代の法廷で裁くという発想は、興味深いですね。