榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

夫に愛されていると自覚した妻が示した驚くべき行動力・・・【情熱的読書人間のないしょ話(430)】

【amazon 『ちいさこべ』 カスタマーレビュー 2016年6月25日】 情熱的読書人間のないしょ話(430)

六本木ヒルズの広場の高さが10mある巨大なクモのオブジェ「ママン(母)」は、ルイーズ・ブルジョワの作品で、たくさんの卵を抱えています。その脇の滝の壁が涼しさを演出しています。裏手のグランド ハイアット 東京には岩山風の滝があります。その前の静まり返った桜田神社では狛犬が迎えてくれました。因みに、本日の歩数は17,217でした。

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閑話休題、山本周五郎の作品を読むと、励まされ、勇気づけられます。『花筵』(山本周五郎著、新潮文庫『ちいさこべ』所収)も期待を裏切らない時代物の中篇でした。

藩の重臣の娘として大事に育てられたお市は、中級武士・陸田信藏に嫁入りしますが、日が浅いためもあって夫から愛されているという実感を得られずにいます。「掛け夜具の端を上げながらさあと促された。そうしてはいけない余りにはしたない、こう思う意志とは反対にお市の躯はするすると良人のほうへすり寄っていた。・・・そのときそうするちからが自分の躯の中にあったということを、後になって彼女はどれだけ感謝したか知れない、まだ充分によびさまされなかった未知の感覚を味わうことができたのもその期間のことだ、それは一つの死にも比べたいほどの激しい忘我と痙攣とでお市を圧倒し、最も深いところからお市の肉躰と心とを造り変えた。その感覚を知った後とその前とではものの見方も考え方も違ってきたほど根本的であった。妻というものの自信もよろこびもそして誇りも、そのとき以後はじめてお市の身にはっきりと付いたようである」。

お市には表向きのことはよく分からないのですが、どうも夫は同志たちと秘密の活動を行っているようで、日々、不安が募ります。間もなく、藩を二分する争いが勃発しますが、夫の生死は杳として知れません。それからの1年余の間に、次から次へと転変・不幸がお市を襲います。しかし、彼女は勇気を奮い起こして、逆境に立ち向かいます。「良人が死んだという最も大きい不幸の直感が、却って彼女に力と勇気をよび起こしたのである」。「自分は良人を愛した。良人は自分を愛して呉れた」という自信が彼女の背中を押したのです。

そして、お市は藩政の正しい改革と領民の幸福を願って立ち上がった夫の遺志を継ごうと決意するのです。

そして、思いがけない結末が訪れます。

著者の巧みなストーリー展開を追いかけているうちに、愛とは何か、結婚とは何か、夫婦とは何か――を深く考えさせられる作品です。