榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

日本人が、これまで戦争を選ばされてきたのはなぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(456)】

我が家では、矮性の濃紫色のアサガオが咲き始めました。白いキキョウが盛りを迎えています。マンリョウが小さな白い花をたくさん付けています。散策中に、いろいろな色のアサガオを見かけました。因みに、本日の歩数は10,640でした。

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閑話休題、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(加藤陽子著、新潮文庫)の内容は、読む前に想像していたものとは大分違いました。戦争を声高に非難するのではなく、日本が戦争――日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争――に突入していった歴史上の事実に淡々と語らせるという手法を取っているからです。

当時の日本のエリート官僚たちは、日中戦争を戦争とは捉えていなかったというのです。「東亜(=日本、台湾、朝鮮、満州国、その他の日本占領地域)が、英米などに代表される資本主義国家や、ソ連などに代表される共産主義国家などに対して、革命を試みている状態、これが日中戦争だ。戦争ではなく、革命だといっている。とても奇妙ですよね」。

日本軍が、満蒙(=南満州+東部内蒙古)について、国民を煽動している内容と、軍内部で軍人たちが議論している内容とは、全く違っていたというのです。「(国民に訴えたのは)中国は条約違反である。日本は被害者である。よって満蒙の特殊権益を無法者の中国の手から守らなければならないとの、原理主義的な怒りの感情です。でも、石原(莞爾)たちは全く違うことを離していますよね。軍人たちの主眼は、来るべき対ソ戦争に備える基地として満蒙を中国国民政府の支配下から分離させること、そして、対ソ戦争を遂行中に予想されるアメリカの干渉に対抗するため、対米戦争にも持久できるような資源獲得基地として満蒙を獲得する、というものでした」。満蒙に対する意図がずれていることは、軍人たち、事件を起こす政治主体たちは百も承知でした。国民の中に燻る中国への不満を焚き付け、自分たちが目指す戦争へ国民を煽動することが真の狙いだったのです。

当時の若槻(禮次郎)内閣は、石原らの関東軍の暴走を抑えるには最も理想的な内閣だったにも拘わらず、阻止できなかったのです。政党も戦争反対の声を挙げることができませんでした。戦争に反対する勢力が、次の田中(義一)内閣、浜口(雄幸)内閣によって治安維持法違反という名目で大量検挙されてしまったからです。それこそ根こそぎ監獄に入れられてしまったのです。

戦争に突入していったことについては、軍人、政治家だけでなく、国民の側にも問題がありました。陸軍のスローガンに国民がまんまと乗せられてしまったという事実があるからです。「戦争が始まれば、もちろん、こうした陸軍の描いた一見美しいスローガンは絵に描いた餅になるわけですし、農民や労働者の生活がまっさきに苦しくなるのですが、政治や社会を変革してくれる主体として陸軍に期待せざるをえない国民の目線は、確かにあったと思います」。

兵士にとっても国民にとっても、戦争は悲惨なものでした。未来のある若者たちをむざむざと戦争に引きずり込んだ国家への怒りを忘れてはいけません。国民を自分たちの目指す方向へまとめるには、危機を煽動することが近道だということを為政者は知っているのです。我が国の安全保障を考える上でも、憲法改正を考える上でも、本書は必読の一冊と言えるでしょう。