榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ピーターラビットの生みの親の知られざる生涯・・・【情熱的読書人間のないしょ話(604)】

【amazon 『ピーターラビットの世界へ』 カスタマーレビュー 2016年12月1日】 情熱的読書人間のないしょ話(604)

我が家の庭の餌台にメジロがペアでやって来ました。愛媛ミカンが気に入ったのか、目を細めて(?)食べています。黄一色のイチョウ並木が小雨に煙っています。ソメイヨシノの散り残った葉が寂しそうです。

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閑話休題、ピーターラビットの物語は好きだが、その作者については何も知らなかった私にとって、『ピーターラビットの世界へ――ビアトリクス・ポターのすべて』(河野芳英著、河出書房新社)は素敵な案内役を果たしてくれました。

1866年、イギリス・ロンドンの裕福な家の令嬢として生を受けたビアトリクス・ポターは、少女時代に家族と訪れた湖水地方の美しさに魅了されます。

27歳の時、昔の家庭教師の5歳の息子がポリオで病床にあると聞いたビアトリクスは、自分がかわいがっていたウサギを主人公にした絵手紙を送ることにします。「(子ウサギの)やんちゃなピーターがお母さんの言いつけを聞かず、マグレガーさんの畑に入って、野菜を食べ、追いかけられ、捕まりそうになりながらも、やっとのことで住処に戻るという物語です」。

息子のもとに頻繁に送られてくる絵手紙をまとめて、小さな子供向けの絵本にしたらと、元家庭教師から提案されたビアトリクスは、出版社に絵本の原稿を送りますが、どの出版社からも色よい返事を得ることはできませんでした。

紆余曲折を経て、36歳の時、フレデリック・ウォーン社から出版された『ピーターラビットのおはなし』は、たちまちベストセラーになります。その後、発表する絵本がことごとくヒットし、ベストセラー絵本作家・ビアトリクスが誕生するのです。

愛する男性の死を乗り越えたビアトリクスは、42歳の時、5歳年下の弁護士、ウィリアム・ヒ―リスと結婚します。二人は30年に及ぶ幸せな結婚生活を送りながら、湖水地方の景観を守る運動に邁進します。

農場経営を行い、湖水地方の大地主となったビアトリクスは77歳の生涯を閉じますが、ウィンダミア湖、エスウェイト湖、コルストン湖周辺の土地等々、総面積で4,300エーカー、その土地に付随した16の農場、コテッジ・ハウス20戸がナショナル・トラストに遺贈されました。これはそれまでにナショナル・トラストが個人から寄贈された最大のものでした。

本書には、作者のことだけでなく、ビアトリクスゆかりの地、日本におけるピーターラビット、さらに広がり続けるピーターラビットの世界など、ピーターラビットとビアトリクスのことが幅広く網羅されています。ピーターラビット・ファンには堪らない一冊です。