具体的な失敗予防法が満載の一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(623)】
1950年、ライフ誌に掲載されたロベール・ドアノーの「パリ市庁舎前のキス」は、青春の輝きを鮮やかに写し出しています。このカップルについてはいろいろなことが明らかになっていますが、そういうこととは関係なしに眺めたい作品です。
閑話休題、『なぜかミスをしない人の思考法』(中尾政之著、三笠書房・知的生きかた文庫)には、失敗予防の方法が具体的に記されています。
「人間は必ず失敗する。それも性懲りもなく、同じような失敗を繰り返す。しかし、自分のミスをきちんと知識化、教訓化することがミスの再発を防ぐだけでなく、逆にミスしないようなスキルやノウハウを積み上げる。そして、それが質の高い仕事をするための絶好のチャンスに変わる。一般に仕事のできる人は、自分のミスだけでなく、他人のミスも『他山の石』として知識化し、教訓化しているものである」。「ミスはよい仕事をするための貴重なデータなのだと意識を変えてもらいたい。他人が失敗するたびに、自分の代わりにやってくれてありがとう、と感謝すべきである」。
著者は、「危ない」と思うことがあったら、必ず文書の形で記録に残すことを勧めています。具体的には、①失敗の内容=どんな失敗が起こったのか、②経過=どのように失敗が起こったのか、③原因=なぜ失敗が起こったのか、④対処=どのように失敗に対処したのか、⑤総括=どんな失敗だったのか、⑥知識化・教訓化=今後、失敗をどう活かすか――を記述し、失敗の事象・原因・対策を正確に把握せよというのです。
大きな仕事に取り組むときは、どんな変化にも対応できるよう3種類のシナリオを用意せよとアドヴァイスしています。①あるべきシナリオ=「こうであってほしい」という希望的観測が入ったもの、②こうなるシナリオ=極めて現実的な、このままならこうなるだろうというもの、③ありうるシナリオ=「万一のことがあればこうなりかねない」という最悪の事態を想定したもの――の3種類です。
失敗をしてしまったときは、その失敗をすぐに捨ててしまわずに、分析や検証を加え、ミス自体を活用するという強かさも必要です。
松下幸之助のエピソードが印象に残りました。「(松下幸之助から経営の免許皆伝と認められた)丹羽(正治)氏に、『幸之助さんの特長は?』と聞くと、『失敗したら自分が悪い。成功したら運が良かった。徹底してこう考える人でした』と返ってきた」。