劇画『ゴルゴ13』の連載が、1回の休載もなく47年間も続いている理由・・・【情熱的読書人間のないしょ話(702)】
知人の写真家・松尾次郎氏が主宰する塾の写真展で大いに刺激を受け、写真というものの奥の深さを再認識しました。図書館での読み聞かせヴォランティアで、『ぶたくんと 100ぴきの おおかみ』と『もりのなか』を読みました。あちこちで、さまざまな品種のツバキが咲いています。ツバキが散り始めている所もあります。帰宅途中、ハシブトガラスたちが太陽を横切っていくシーンに遭遇しました。因みに、本日の歩数は10,690でした。
閑話休題、私は劇画『ゴルゴ13』の長年に亘るファンです。ゴルゴ13の生みの親、さいとう・たかをの自伝にして劇画論でもある『俺の後ろに立つな――さいとう・たかを劇画一代』(さいとう・たかを著、新潮社。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を興味深く読みました。
ゴルゴ13の内輪話を知ることができるのは、ファンにとって嬉しいことです。「私は、説得力のある言葉で、私のような悪童を納得させてしまうその人物を無条件で尊敬してしまった。彼の名こそ東郷先生。お察しの通り『ゴルゴ13』のデューク東郷という名は、その(中学校の)先生から頂戴したものだ。以来、東郷先生だけは別格扱いで、素直にその教えに従った。(ガキ大将の)私がそうするのだから、校内で東郷先生にタテをつく者はいなかった。尊敬の念をもって接すれば、相手も胸襟を開いて、何でも意見してくれた」。
ところが、ショッキングなことが起こります。「東郷先生が私の絵を非難したのである。しかも才能までないと断言された。絵には自信があったし、周りのだれもがそれを認めていたにもかかわらずだ。事実、展覧会などに出品すれば、必ずと言っていいほど賞をいただいていた。それでも才能がないときっぱり尊敬する先生に言われたのだからたまらない」。東郷先生に井の中の蛙の自慢の鼻をへし折られてしまったのですが、この一件は著者の成長を促すことになります。
「兄の参加で、夢はぐっと引き寄せられて、4月に、さいとう・プロダクションは産声を上げた。兄に営業と総務を任せ、私は創作活動に没頭。それまでアシスタントを務めてくれていた3、4人のスタッフでいよいよ分業化に着手。・・・しかし、プロの世界はそんなに甘くはない。絵のうまい者はいくらでも存在する。そこで勝ち抜いていくのは並大抵のことではない。才能、努力、そして運もある。運とはヨットでいえば、自分の風である。それが吹かない限り、どんなにじたばたあがいても前へは進まない。そんな自分の風を待つためにも、まずは、あるパートのエキスパートになるのが得策なのだ。自分の一番優れているところで才能を発揮できることの素晴らしさを、是非、知ってほしかった」。本書は優れた仕事論でもあるのです。
「まず、取り組むのが主人公の名前。これは人様とも同じで、名前がその性格に大きく影響する。極端な話、名がついたところでキャラクターの性格は確定すると言ってもいい。その好例が、『ゴルゴ13』である。『ゴルゴ』とは、キリストが十字架にかけられたゴルゴダの丘で、『13』はキリストの最後の晩餐で13番目の席についたユダにまつわる数字だ。そこからイメージを膨らませ、あのキャラクターは出来上がった」。
「『ゴルゴ13』にしても、陰謀、戦争、権力争い、失脚、嫉妬というようにさまざまな話がその舞台となるが、これらの枝葉になるネタがなくなることはない。企業と政治の癒着や大富豪の相続争いなどはよくあるパターンだが、アレンジ方法は無尽蔵と言ってもいい。政権交代、あるいは天下りも格好のテーマになる。そこに野望を抱いて虎視眈々とトップの座を狙う男や親友を裏切った過去を持つ男が登場すれば、物語はどうにでも展開する」。
「これまでに500話を超える物語を描いてきたが、ゴルゴ13を単なる狙撃者として描いたことは一度たりともない。彼を通して、きれい事ばかりが認められる世の中に対してのアンチテーゼを必ず忍び込ませている。一見、冷酷非道のキャラクターのようだが、実はその裏にはもう一つのゴルゴの顔がある。そこを見出していただけたならば、ゴルゴは決して冷酷でもなければ、強い男でもなく、ただ使命を果たしているに過ぎない。極端なことを言えば、企業繁栄のために、家族のために懸命に働くビシネスマンと同じ人間であることに気づいていただけるはずだ」。この「ゴルゴ=普通のビジネスマン」論には、少々驚かされました。
「誰がなんと言おうとも、人生は楽しむものだ。仕事でもプライベートでも悩みは尽きないが、ふりかかる火の粉も、はたまた幸運も、我が人生だからこその物種と、前向きに取り組んで生きている。・・・物事を謙虚に受け止めて今日を健康に生きていることに感謝する気持ちがあれば、幸福は身近に感じるものだ。自分の置かれた境遇の粗さがしをするのではなく、自分なりの価値観を見出す。謙虚な気持ちでいいところ探しをすれば、おのずと幸福になるための原点が見えてくるものだ。私の場合。いいことも悪いことも真正面から受け止めている。そうすることで、いろんな反応をする自分を発見できる。それがたとえ損をすることでも、そんな状況に立たされた自分を知ったのは得と考えれば相殺もできる、それが私の価値観なのである。極楽トンボと揶揄されるが、おかげで不幸だと思ったことは一度たりともなく、大いに満足しながら日々を過ごしている」。これほど、あっけらかんと自分の生き方を肯定できる人、そして、それを臆せず発表できる人は滅多にいませんが、著者のこの前向きな姿勢こそが連載を47年間も続けさせる原動力となってきたのでしょう。
ゴルゴ13だけでなく、さいとう・たかをも好きになってしまいました。
あ