榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

引用句辞典は、洒落た言葉の宝庫なんだって・・・【情熱的読書人間のないしょ話(719)】

【amazon 『叡智の断片』 カスタマーレビュー 2017年4月6日】 情熱的読書人間のないしょ話(719)

どこを歩いても、満開のソメイヨシノが迎えてくれます。白い花のイズヨシノも趣があります。あちこちで、さまざまな色合いのチューリップが咲いています。因みに、本日の歩数は10,760でした。

閑話休題、『叡智の断片』(池澤夏樹著、集英社文庫)は、池澤夏樹が愛用している英語圏の引用句辞典から気に入った言葉を抜き出し、解説したものです。

結婚について。「本当の幸福がどんなものか、ぼくは結婚するまで知らなかった。知った時はもう手遅れだった」(マックス・カウフマン)。

「アガサ・クリスティーの夫は優れた考古学者だった。夫の発掘に同行した彼女は『メソポタミア殺人事件』という話を書いている。その彼女が言うには――『女は考古学者と結婚すべきなのよ。あなたが老いて遺跡に似れば似るほど、いよいよ夫はあなたを愛するようになるから』。遺跡ねえ」。

「端的に言ってしまうと、『男にとって結婚はセックスのために払う代価であり、女にとってセックスは結婚のために払う代価である』ということになる。これもまた無名(アノニム)氏の言葉」。

戦争について。「戦争は負けるのだ。勝ったように見える側も結局は負けている。勝者がないのが現代の戦争。だから人は、18世紀の後半にベンジャミン・フランクリンが言った言葉に戻るべきなのだ。『良い戦争というものはないし、悪い平和というものもない』」。

悪口について。「チャーチルは見事だった。ナンシー・アスターというイギリス初の女性議員がチャーチルに『私があなたの妻ならば、きっとコーヒーに毒を入れるわ』と言ったのに対してすぐに彼は、『万一あなたが妻ということになったら、私はそれを飲むだろう』と答えた」。

成功について。「ウィルソン・ミズナーというシナリオ・ライターによれば、『登る途中で会った人には親切にした方がいい。たいてい下りる途中でまた会うものだから』。この言いかたはどこかおとぎ話めいていていい。田舎の若者が都に上って出世する。その途中で名もなき者を助ける。都で立身し、やがて失脚してすごすごと田舎に帰る途中で、名もなき者に再会する。そこでかつての親切のお返しをしてもらい、何か小さな幸福を得て故郷に帰る、という具合。状況を変えて現代的にするとちょっとした短篇になる」。作家というのは、常に小説の素材を探している人種なのですね。

作家について。「ぼくが尊敬するイーヴリン・ウォーに言わせると『誰だって、ペンと紙を与えられ、電話がなくて妻がいない日々が6週間あれば、小説が書ける』のだそうだ」。

引用について。「一人の作家から盗めばそれは剽窃。たくさんから盗めばそれはリサーチ」(ウィルソン・ミズナー)。

「アメリカで最も頻繁に引用される作家であるマーク・トウェインからは、『災いを引き起こすのは<知らないこと>ではない。<知らないのに知っていると思いこんでいること>である』が引かれる」。

恋について。「名優ジョン・バリモアが言う――『恋とは、美しい娘に出会ってから、彼女が鱈に似ていると気づくまでの間の至福の時間のこと』。鱈ねえ。ずっと気づかないというわけにはいかないのか」。

「ここでアメリカの批評家メンケンの言葉を思い出そう――『恋は戦争に似ている。始めるのは簡単だが、終わらせるのはとてもむずかしい』」。

こういう洒落た言葉を上手に引用できるようになりたいものです。