榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

TPPがもたらす近未来のディストピアを生々しく描いた小説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(730)】

【amazon 『ひょうすべの国』 カスタマーレビュー 2017年4月18日】 情熱的読書人間のないしょ話(730)

我が家の庭では、クルメツツジが満開です。オダマキ、フリージア、白に淡い紫色のシバザクラ、タチツボスミレ、チューリップも咲いています。フクロナデシコ、モクレンも頑張っています。

閑話休題、『ひょうすべの国――植民人喰い条約』(笙野頼子著、河出書房新社)は、TPPがもたらす近未来のディストピアを生々しく描いた小説です。

全篇で頻出する「ひょうすべ」とは、「表現がすべて」という名の妖怪の略称で、世界的企業や権力者だけが享受できる、何でも言いたい放題の表現の自由を指しています。「実はひょうすべとは、逆に報道を規制してくる存在でさ、しかも芸術も学問も、売り上げだけでしか評価しないで絶滅させに来る、いやーな存在なの。つまり、ひょうすべが『表現の自由』として守るのは売れる大企業の、商業宣伝広告だけ、という事なんだよね。そんなひょうすべの正体、それは、・・・。大きい、大きいお金の精なんだね。ひょうすべ、イコール世界的権力企業の金庫守護霊ね。だからどんなひどい事もどんな嘘も、そいつは、権力者にだけは許している。権力や企業の告発報道だけは絶対させない、嘘つきの自由、搾取の自由。またその他にはそういうお金の精だけを支持したがるような、売り上げ専一、強いものの天下を支えてくれる、麻薬のような、弱者虐待の自由、性暴力の味方、差別の推奨。それ簡単に言えば、ちかんごうかん、ひとごろし、まとめて言うなら経済人喰い、ヘイトゾンビ、それが表現のすべてだと言っている、そういうわけですね」。

「だってほらこのTPP、今や既に、殆どの他国で、民はその正体に気づいてしまい『うわーっ、だまされたーっ、やめるーっ、聞いてませんっ、たすけてーっ』とか叫んでしまっているわけだが。そんな中、ここ、日本人だけが、冷静ににこにこして『平和』なのであるもの」。

「やあやあ、われこそは。戦争が付け合わせ、原発は召使の、ひょうすべでございます」。

「お役所の悪口や原発への文句、戦争がいやだとか、私たちは何も言えなくなってひさしかったですから。むろんひどい事に、ひょうすべはそれらのことごとくが平気だったのです、そして。・・・今日とうとう、全部の経済特区で、売春がついに合法化されてしまいました。年齢は15歳からと決まりました」。

「にっほんは前の戦争法案の時に『生まれ変わった』のです。戦争がその時から出来るようになった。国名も日本からにっほんという間抜けな名に変わりました。内閣は人喰い妖怪のひょうすべとすり変わった。無論これよりずっと前から、どんな怒りの声も、テレビにも新聞にも出なくなっていました。ていうかそれ以前に怒るための燃料を、新聞もテレビも、せっせと隠すようになってしまっていた」。

「・・・九州の経済特区にある工業地帯で暴動が起こり、すぐ鎮圧されました。最低賃金100キモータで債務奴隷にされた人々の乱。先月は四国で農業特区からの逮捕者が出ました。どの県もなんとかTPPから逃れようとして、にっほんから独立しようとするけど、うまくいきません。暴動を起こした責任者は無論収監され、裁判なしで国替え、別の特区に、送られました。しかもその損失責任者の娘さんは、生きた身体を『二次元化』され、『人喰い』の来る遊廓に『保護』されたそうです」。

「戦争の実態、今度の戦争も二度とも実は、特区で人が、沢山、死んでいるんだ。それを戦争と呼ばずに海外協力と呼んで、腑抜けマスコミには一切報道させない、か、事故扱い。民間の船も、大量沈没しているから、そこも海難事件で処理している。そして全部の戦死者を事故死呼ばわりだ。無論、遺族年金なんてひょうすべが食っちゃったからもう誰にもあげられない。北海道では人口の5分の1が死んでいるそうだ」。

「・・・なんにしろ連中のスタンスは明治の地主の坊ちゃん! 女はすべて未成年から重労働、働いていて字が読めず性的玩具。子守ひとつでも男の気に入るように衣服をはだけ、髪をみだしてはぁはぁ言いながら卑屈な笑顔でする。赤面しながら萌えエロそっくりの乳袋シャツに尻割れスカート着用、それを一番疲れる召使仕種で不自然にやる。そしてもし少女が過労死を免れるちょっとした方法を見つければたちまち、お上は被害者面全開で取り上げに来る」。

「人喰い条約TPPに調印した人殺し政府の責任において、薬を奪われ、あるいは適正価格の薬を買うことが出来ず、ついにこの島国の薬価を掌で転がす事が出来るようになった世界企業のえらいさんたちの笑い転げる天が下で患者達は」。

TPPに反対の人も、賛成の人も、目を通すべき一冊です。