榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

個性豊かな編者たちによる、捻りの利いた言葉の見本市・・・【情熱的読書人間のないしょ話(873)】

【amazon 『定義集』 カスタマーレビュー 2017年9月6日】 情熱的読書人間のないしょ話(873)

クリの実が落ちています。ムベの実がほんのりと色づき始めています。サルスベリが緑色の実を付けています。ガマの茶色い円柱型の穂が風に揺れています。因みに、本日の歩数は10,024でした。

閑話休題、『定義集――ちくま哲学の森 別巻』(鶴見俊輔・安野光雅・森毅・井上ひさし・池内紀編、筑摩書房。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)には、個性豊かな編者たちがこれはいいぞと思った言葉が縦横無尽に集められています。だから、捻りを利かせた上質のエッセイ集の趣があります。

例えば、こんなふうです。「偽善――偽善とは悪行が美徳に支払わなければならない貢ぎ物にほかならない――実生活では不道徳な人間のままでありたいが、しかし、せめて精神的には、美徳や善行と縁を切りたくないと望んでいる人間にとって、はかり知れないほど慰めとなる思想である(ドストエフスキー「作家の日記」)」。

「希望――希望とは、ある出来事が起こってくれるように願うことと、その出来事が起こりそうだと思うこととをとりちがえたものです。人の心の愚かしさは、蓋然性にたいする知力の正しい評価をはなはだしく狂わせて、千にひとつの場合をも、たやすく起こりうるもののように思わせますが、しかし、おそらくだれひとり、このような心の愚かしさから離脱してはいますまい(ショーペンハウアー「心理学的覚え書」)」。

「教養――教養とは、想像力が、屈伸性において、範囲において、感入の度合において成長して、ついに個々人のいとなむ生活が自然の生活と社会の生活によって滲透されるにいたるような、そのような想像力の成長のことをいうのである(デューイ「学校と社会」)」。

「軍隊――軍隊とは服従する国民である(ナポレオン「言行録」)」。

「結婚――結婚は鰻の簗と同じ、外にいる者は入ろうとし、中にいる者は出ようとする(ノルウェーのことわざ)」。

「酒――酒は唇よりきたり 恋は眼より入る われら老いかつ死ぬる前に 知るべき一切の真はこれのみ われ杯を唇にあて おんみを眺めかつ溜息す(イェーツ「酒の唄」)」。

「死――私が存在する時には、死は存在せず、死が存在する時には、私はもはや存在しない(エピクロス「メノイケオス宛の手紙」)」。

「自由――自由とは、一度かち取れば永久に自分のものになるものではなく、その反対に、ちょうど張りつめた綱が平衡を保っているように、絶えず新たな努力をする必要のあるものだ(エセル・S・スミス「歳のとりかた」)」。

「書物――書物は古い傷口を開き、さらには新しい傷をさえもたらすものでなければならない。書物とは一箇の危険であるべきだ(シオラン「四つ裂きの刑」)」。

「人生――人生は、段々に諦めて行くこと、絶えず我々の抱負、我々の希望、我々の所有、我々の力、我々の自由を減らして行くことの修行である(アミエル「日記」)」。

「戦争――考えてみるてえと、戦争ほど大きなバクチはありませんな。人がいのちをかけて、国を張ってやるんですから、勝ったほうはいいが、負けた日にゃァとりかえしがつかない。あたしの子供のころに、日清、日露の戦争で、勝った勝ったと日本じゅうが大さわぎしましたが、こんどの戦争はアベコベになっちまった。法律で、戦争やっちゃァいけねえ、バクチもやっちゃァいけねえってのは、こりゃァあたり前のことですよ(五代目古今亭志ん生「びんぼう自慢」)」。

「茶――茶の湯とはただ湯をわかし茶をたてて 呑むばかりなることと知るべし(「利休百首」)」。

「読書――読書は想像力を鍛えます。想像力がますます増強するような刺激を与えます。それだけのことです(カート・ヴォネガット「パーム・サンデー」)」。

「美人――美しく生れつきたる女、十人に六人は心驕れり。美しく生れつきたる女、十人に六人は智乏し。美しく生れつきたる女、十人に六人は命薄し。家を破れるものの母を見るに、十に六までは美人なり。浮き名の淵に沈みて果つる女の母を見るに、十に六までは美人なり。しおらしかりし心かわりて、家の乱れ世の謗りをひき出せる寡婦を見るに、十に六までは美人なり。美しき花の好き実を結ぶは、草木にも多からず(幸田露伴「諫言」)」。

「勇気――お金がなくなったときには人生の半分が失われる。勇気がなくなったときにすべてが失われる(ユダヤ格言集)」。

「歴史――まったく歴史とは、そのほとんどが人類の犯罪、愚行、不運の登記簿にほかならない(ギボン「ローマ帝国衰亡史」)」。

気が向いた時に、目に付いた言葉を拾い読みするだけで、人生の滋味に触れることができる味わい深い一冊です。