学生が作った小さなビオトープに、3年後、サンショウウオが戻ってきた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(874)】
散策中に、緑色に輝くアオドウガネに出会いました。オオカマキリの褐色型を見つけました。キアゲハが飛び回っています。突如、ニホンカナヘビの幼体が現れました。因みに、本日の歩数は10,050でした。
閑話休題、私は、子供の頃から小さな沼や池に心惹かれてきました。その延長線上の小さなビオトープにも関心があります。こういう私ですから、『先生、犬にサンショウウオの捜索を頼むのですか!――[鳥取環境大学]の森の人間動物行動学』(小林朋道著、築地書館)の「帰ってきたカスミサンショウウオ――大学林につくった人工池で3年後に起こったこと」の章を、とりわけ興味深く読みました。
「カスミサンショウウオは、岐阜県から九州の北西部にかけて分布する日本固有のサンショウウオであり、一方で、各地でその生息場所の消失が報告され、絶滅危惧種に指定されている」。
今から9年前、卒業研究で「カスミサンショウウオの繁殖地の創出」を行っていたタナカくんが、大学林の中に長径2.5mのビオトープ「タナカ池」を作りました。「人間の活動の発展とともに絶滅の危機に陥っている野生生物を救うためには、生息環境が残っている場所で生きている一つひとつの個体群(これを局所個体群と呼ぶ)の数を増やすといい。そうすればいくつかの個体群が絶滅しても、『元金』が残っていれば、また環境が改善すれば個体群が復活できるからだ(ある地域全体に存在する局所個体群をひとまとめにして認識したものをメタ個体群と呼ぶ)。タナカ池をつくるということは、そういった局所個体群の数を増やし、メタ個体群を拡大することになるのだ」。
やがて、ゼミの発表会で、タナカくんから、彼が苦労の末、作り上げたタナカ池に入れたカスミサンショウウオの卵塊から既に何匹かの幼生が泳ぎ出しているという報告がなされます。「さらに数週間して、幼生の体長が増加していき鰓も小さくなりはじめたと聞いたときには、『いよいよ上陸か』といううれしい気持ちと、『上陸したら森で生きぬき、ほんとうに3年後に池にもどってくるのだろうか』という不安な気持ちが交錯した。『3年』というのは、これまでのカスミサンショウウオの生態研究から推察されている年数である。この間に、幼体は陸上で土壌動物を食べ、繁殖可能な成体に成長すると考えられている」。
あとは、3年間、待つのみです。「タナカくんは卒業していった」。
「それから時は過ぎていったが、私はタナカ池を見守りつづけた」。「大学の裏山の池にこれがいました!」と、ある学生がカスミサンショウウオの幼生を捕まえて、「私の研究室を訪ねてきたのは、タナカくんが池に卵塊を入れてから・・・3年目(!)の春だった。・・・そしてそれから春には毎年、タナカ池ではカスミサンショウウオの産卵が見られた」。さらに、その後、著者は、大学林の倒木の下で陸上生活を送っているカスミサンショウウオの生体を見つけます。
舞台が小さなビオトープであること、一学生の研究が3年後に見事に実を結んだこと、教師が学生の卒業後もビオトープを見守ったこと――が、私を感動させたのです。