榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

多摩、上野、井の頭の動物園での飼育を巡る興味深いエピソード・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1039)】

【amazon 『動物園ではたらく』 カスタマーレビュー 2018年2月26日】 情熱的読書人間のないしょ話(1039)

ヒヨドリとムクドリが上手に水を飲んでいます。因みに、本日の歩数は10,325でした。

閑話休題、『動物園ではたらく』(小宮輝之著、イースト・プレス、イースト新書Q)には、長年に亘り、東京の多摩動物公園、上野動物園、井の頭自然文化園でさまざまな動物の飼育に携わってきた著者の熱い思いが籠もっています。

多摩動物公園のヤギの話。「多摩のヤギは少し変わっていて、茶色い毛に背中と肩に十文字の黒い斑があります。牧場で見られるような白いヤギは、野生の『原種ヤギ』であるノヤギから人為的に創られた『家畜ヤギ』です。多摩ではこのノヤギに似たヤギを創りだし、飼育しているのです。原種創りの切っ掛けになったのが、『ガポー』という名で呼ばれていたヤギがやってきたことでした。『家畜ヤギ』が人の手を離れて再野生化したもので、東京水産大学がガラパゴスから持ってきたのでした」。

「ヤギは性成熟が速く、年に2回出産することもあり、多産ですから、原種タイプのヤギは5年でできました。角はノヤギのように長大にはなりませんでしたが、肩に十文字の黒い毛がある茶色の毛色というノヤギにそっくりなヤギが誕生しました」。

多摩動物公園でノウサギの飼育に挑戦した話。「当時、ノウサギを飼っている動物園は少なく、飼っていてもノウサギは臆病で常設的な展示にはいたっていませんでした。ノウサギは、ペットとして飼われている『飼いウサギ』のイメージから飼育が簡単と思われがちですが、動物園界では飼育の難しい『難獣』として知られていました。・・・日本のノウサギは日本固有種ですし、鳥獣戯画でカエルと共演し、かちかち山や因幡の白兎など昔話にもよく登場するなじみぶかい動物です。ぜひ、本物の昔話の主人公を展示し、皆さんに見てもらいたいという衝動に駆られました」。

「2年の時間をかけ、5ケージ分(の棟)が完成しました。5ケージというのはエゾユキウサギ、トウホクノウサギ、サドノウサギ、キュウシュウノウサギ、オキノウサギという日本のすべてのノウサギを飼いたかったからでした」。「ちなみに、なぜ東京のノウサギをキュウシュウノウサギと呼ぶのかというと、これは西日本全体の小型のシカをキュウシュウジカと呼ぶのと同じ要領です。これらの学名は、シーボルトが長崎からオランダのライデン博物館に送ったノウサギ、ニホンジカにつけられました。最初にヨーロッパに送られた標本が九州産だったので、種を代表する名前に『キュウシュウ』という地名が付いたのです。関東産も、四国産も、みんなキュウシュウノウサギという亜種名で呼び、冬には白くなりません」。

「(飼育小屋の)面積は思いきて1坪程度に小さくして、この1坪に1つがいずつ入れました。自然の状態からすると、1万倍の密度で飼ったわけですが、これは成功しました。・・・1坪の狭いところは、あっという間にバランスが崩れるはずですが、そこを崩さないのが飼育係の仕事です。飼育係がえさを与え、糞を掃除することで、ノウサギが生きていく環境を、太陽光や雨水に代わって整えているのでした」。

井の頭自然文化園のヤマドリの話。「井の頭では、地域ごとに特徴が異なるヤマドリの亜種たちを一同に並べて飼育しています。この展示には、現在ヤマドリが抱えるある問題が深く関わっています。同様の問題に悩まされているキジを例にして説明しましょう。現代の日本で私たちが見ているキジは、(1947年に)国鳥になる以前のキジや、桃太郎が家来にしていた時代のキジとは少し異なるかもしれません。というのも、キジはかつて日本各地にいくつかのタイプがいました。北のキジの方が大きく、南のキジは少し小型で色が濃いという特徴がありました。キジは狩猟の対象とされている狩猟鳥です。あるときから、キジの生息数を増やすために、国はキジを養殖してどんどん放しました。その結果、各地のキジがまじってしまい、本当に昔からいた東北のキタキジや九州のキュウシュウキジといった地域の特徴をもったキジがいなくなってしまったのです。朝鮮半島からもってきたコウライキジが全国に放された時代もあります。コウライキジは、首に白い輪状の模様のある大きなキジです。キジがいなかった北海道では定着しましたが、湿気の多さなど大陸とは異なる気候が合わなかったのか本州以南では消えていきました。しかし、日本のキジの遺伝子にコウライキジの遺伝子もまじってしまい、まれに首に白い羽のあるキジが見つかることがあります」。

「ヤマドリは日本固有種ですが、山地の森林に生息し、キジに比べ暗い林で生活し、身近に目につく鳥ではありません。・・・ヤマドリは本州以南に5つのタイプが生息していて、それぞれが亜種とされています。ヤマドリは北から南へ、だんだん濃い羽色に変化していきます。長距離を飛翔しないため、高い山や海を隔てての移動はせず、地域ごとの羽色に進化していました。鹿児島や宮崎南部のコシジロヤマドリは腰の羽が白く、隣の熊本のアカヤマドリは全身が鮮やかな赤銅色です。本州のキタヤマドリや四国、中国地方のシコクヤマドリは羽に白い斑があるので、赤みが少なく感じます。紀伊半島や房総半島には全体が茶色く見えるウスアカヤマドリが生息しています」。井の頭では、各地のヤマドリの違いが一目で分かるように並べて飼っているのです。近いうちに、5亜種のヤマドリをこの目で確認しに行こうと考えています。

地味な動物たちにも温かい眼差しを注ぐ著者に好感を覚えてしまうのは、私自身が地味なノウサギ、キジ、ヤマドリたちを好きだからでしょう。