榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

宇宙の始まりから生命の誕生、進化まで――一番分かり易い科学史の本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1065)】

【amazon 『人類が知っていることすべての短い歴史』 カスタマーレビュー 2018年3月23日】 情熱的読書人間のないしょ話(1065)

花が薄桃色のシデコブシ、白色のシデコブシを見つけました。花弁が6枚のコブシと異なり、シデコブシは花弁がたくさんあります。当地のソメイヨシノも咲き始めました。ツクシが群生しています。因みに、本日の歩数は11,954でした。

閑話休題、『人類が知っていることすべての短い歴史』(ビル・ブライソン著、楡井浩一訳、新潮文庫、上・下)は、宇宙の始まりから生命の誕生、進化まで、門外漢のジャーナリストが猛勉強して著した科学史の本だけに、その分かり易さは群を抜いています。

宇宙の始まりについては、こんなふうに説明されています。

「ハッブルは思索するより観測するほうがずっと得意だったので、発見したこと(=宇宙は、あらゆる方向へすばやく均一に膨張している)の意味をすぐさま完全に察知したわけではなかった。ひとつには、ハッブルがアインシュタインの一般相対性理論について嘆かわしいほど無知だったせいでもある。これは驚くべきことだ。なにしろ、当時すでにアインシュタインとその理論は、世界的に有名だったのだから。・・・ハッブルは理論を構築する絶好の機会を逃してしまった。そして、それはベルギーの聖職者兼天体物理学者ジョルジュ・ルメートルの手に委ねられた。ルメートルは、2本の糸を縒り合わせて、独自の膨張宇宙論を打ち立てた。・・・それは、現代のビッグバンの概念をみごとに先取りした着想だったが、当時としてはあまりに斬新すぎた。・・・世界はさらに数十年の月日を必要とし、ニュージャージー州で雑音をたてていたアンテナから、ペンジアスとウィルソンが宇宙背景放射を偶然発見したあと、ようやくビッグバンが単なるおもしろい着想から確立された理論へと変わり始めた」。

「ビッグバン(大爆発)と呼ばれてはいるが、これを一般的な意味での爆発ととらえてはいけないことを、多くの書物が指摘している。爆発というより、宇宙は突然、とてつもない速さであれよあれよという間にふくらんでできたものだという。でも、どういうきっかけで?」

「ビッグバン宇宙論というのは爆発そのものに関する理論ではなくて、爆発後に何が起こったのかについて論じる学説だ。爆発後といってもそれほどあとの話ではない。科学者たちは、山ほど数学の問題を解き、粒子加速器内のようすをつぶさに観察することで、創造の瞬間から10-43(「-43」は何乗かを表している。以下同じ)秒後の、まだ顕微鏡なしには見つからないくらい小さかった宇宙を眺めることが可能だと信じている。・・・10-43は、0.000000000000000000000000000000000000000000.1、すなわち1秒の1兆分の1をさらに1兆分の1にして、それをまた1兆分の1にして、さらにまた1千万分の1にした時間に当たる」。    

「宇宙の誕生ほやほやの時期についてわたしたちが知っていること、もしくは知っていると信じていることは、おおむね1979年にアラン・グースが初めて提唱したインフレーション(膨張)理論という考え方に負っている。・・・すなわち宇宙の開闢後ごくごくわずかな時間で宇宙は突然、劇的に拡張したとする学説だった。宇宙は膨張した――というより、内から外に向かって猛烈な勢いで広がり、10-34秒ごとにサイズが2倍に膨れたという仮説だ。変化が一段落するのに10-30秒ほどしかかからなかったと推測される。これは1秒の百万分の1をさらに百万分の1にして、それをまた百万分の1にして、さらにまた百万分の1にした時間の百万分の1だ。にもかかわらず、それは宇宙を、わたしたちが片手で持てる大きさから少なくとも10,000,000,000,000,000,000,000,000倍大きなものに変えた。インフレーション理論によって、わたしたちの宇宙を成り立たせている宇宙のさざ波や渦の動きの説明がつく。そういう動きがなかったら、物質は塊として存在しえないから、この世界は星のない、ただガスの流れる永遠の闇になっていただろう」。

量子力学について。「シュレーディンガーは、巧みな微調整を加えて、流動力学と呼ばれる便利な体系を案出した。ほぼ同じころ、ドイツの物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクは、行列(マトリックス)力学と呼ばれるまったく別の理論を創り出した。・・・相反する前提にもとづいていながら同じ結果をもたらすふたつの理論が、物理学界に登場したのだ。・・・最終的には、1926年、ハイゼンベルクが画期的な折衷案を思いつき、量子力学として知られるようになる新たな規律を生み出した。その中心にある『ハイゼンベルクの不確定性原理』によると、電子は粒子なのだが、浪に置き換えて描写することも可能な粒子だという。理論構築の中心に据えられた不確定性とは、電子が空間を抜けて動く際にとる経路か、ある瞬間に電子が存在する場所か、どちらかを知ることは可能でも、その両方を知ることは不可能とする理論だ」。

「その奇妙さゆえに、多くの物理学者は量子論に、あるいは少なくともその見解の一部に反感をいだいた。誰よりも毛嫌いしたのがアインシュタインだった。・・・『量子論は注目に値する立派な理論だ』。アインシュタインは礼儀正しく、そう講評したが、本心では不満を感じていた。『神はさいころを振らない』とアインシュタインは言った」。

統一理論について。「突然、宇宙の動きを説明するのに2種類の法則が必要になった。微小な世界のための量子論と、広大な宇宙のための相対性理論だ。・・・このふたつはまったく別個の体系で動いている。アインシュタインは、その点も気に入らなかった。そこで残りの生涯をかけて、壮大な統一理論を見出して解決を図ろうと努め、失敗し続けた」。

「すべてを統合する試みのなかで、物理学者たちは超ひも理論と呼ばれるものを考案した。この理論は、かつて粒子と考えられていたクォークや軽粒子などの小さい物質はすべて、実際には『ひも』、つまり振動する糸状のエネルギーであると仮定する。これが、既知の三次元のほかに、時間と、人間には知りえない七次元を加えた十一次元の中で振動しているという。これらのひもはごく微細なので、点状の粒子として通用するのだ。超ひも理論に追加的な次元を導入することによって、物理学者たちは量子の法則と重力の法則を比較的整ったひとつのまとまりに統合することができた。・・・ひも理論から、さらに『M理論』と呼ばれるものが生まれた。この理論は、薄膜と名づけられた表面を組み込んでいる」。

多元宇宙論について。「イギリスの王室天文学者マーティン・リースの考えでは、宇宙はたくさん、ことによると無数にあって、それぞれ属性も組み合わせもまちまちであり、わたしたちは単純に、自分たちが共存できるような形に結合された宇宙に住んでいるにすぎない」。

「ほぼ間違いなく、この分野には将来さらなる思想の発展が見られるはずであり、ほぼ間違いなく、それらの思想もおおかたの人々の理解の範囲を超えたものになるだろう」。

生物の歴史において最も重要な光合成については、このように記述されています。

「始生代の世界では、記念すべき出来事はきわめて稀だった。20億年ものあいだ、細菌性の有機体が唯一の生命体だったのだ。それらは生存、生殖をくり返し、地表を満たしたが、別のもっと高度な存在に進化していく傾向は特に見られなかった。ところが、生物史の最初の10億年のある時点で、シアノバクテリアすなわち『藍藻』は、自由に得られる資源――水中にふんだんにある水素――をうまく利用することを覚える。それらは水の分子を吸収し、水素を取り入れ、酸素を排泄物として吐き出しているうちに、光合成を編み出した。・・・それは植物でなく、細菌によってもたらされたものだった。シアノバクテリアが急激に繁殖すると、地球はO2だらけになり、O2によって害をこうむる有機体――当時の生き物のすべて――をあわてさせた。嫌気性生物の世界では、酸素は猛毒だ。・・・わたしたちの安寧に重要な役割を果たしている酸素が本来毒であるという事実を、意外に思う人も多いだろうが、それは、わたしたちが酸素を利用するように進化してきたからだ」。

この他、●月の力なしには、地球はおそらく今にも止まりそうな独楽のようによろめいて、環境や気候もどうなっていたかわからない。月の不変の引力のおかげで、地球は、生物が長期にわたり繁栄するのに必要な安定をもたらす回転速度と角度を保つことができる、●人類は生物としての歴史のうち、最初の99.99999パーセントまで、チンパンジーと祖先を共有していた、●ガラパゴス諸島滞在時にフィンチという鳥のくちばしの、興味深い多様性に気づいたのがきっかけでダーウィンの推論(=進化論)が生まれたわけではない、●ダーウィンとメンデルは、そのつもりはなくとも、共同して、20世紀の生命科学全体の土台を築きあげた、●DNAの謎の解明についての一般的な記述では、ほぼすべての功績がクリックとワトソンのものとされているが、ふたりの画期的成功は、競争相手が行なった実験作業に決定的に依存していた(=ロザリンド・フランクリンのDNA構造のX線画像を盗み見た)、●アメリカの解剖学者、キャスパー・ウィスターは、誰よりも半世紀早く、恐竜の発見者となるチャンスを逃した、●あなたの両親が契りを結んだ瞬間が少しでも――1秒でも1ナノ秒でも――ずれていたとしたら、あなたは今ここにいない――などなど、興味深い記述が鏤められています。