榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

金持ちの子は金持ちになり、貧乏人の子は貧乏人になる社会でいいのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1078)】

【amazon 『新・日本の階級社会』 カスタマーレビュー 2018年4月5日】 情熱的読書人間のないしょ話(1078)

シジュウカラに出会いました。サクラの一種、ウコンが薄黄色の花を咲かせています。ハナズオウが桃色の花をびっしりと付けています。ギョリュウバイの花の赤と黒のコントラストが目を惹きます。ツルニチニチソウの青い花は、よく見ると、清楚です。薄紫色の花のシバザクラを見かけました。因みに、本日の歩数は10,942でした。

閑話休題、『新・日本の階級社会』(橋本健二著、講談社現代新書)は、現代日本の階級社会の生々しい実態を暴き出しています。

現代の日本社会の特徴として、貧困率が上昇し、膨大な貧困層が形成されていることが挙げられます。「貧困率の上昇は、非正規労働者が増えたことによる部分が大きい。なかでも深刻なのは、学校を出たあと安定した職に就くことができず、その後も非正規労働者として低賃金で不安定な職に就くことを余儀なくされ続けている若者たち、そして元・若者たちが激増したことである」。

これらの人々の多くは、経済的理由から結婚することも子どもを産み育てることもできない状態に置かれています。「このことが、未婚率の上昇をもたらしている。50歳時点で一度も結婚したことのない人の比率を『生涯未婚率』というが、国立社会保障・人口問題研究所は、この値が2035年には男性29,0%、女性19.2%にまで上昇すると予測している。・・・日本は、その人口の3割もが、主に経済的理由から安定した家族を形成できない社会になりつつあるのである」。

「こうした意味で現代の日本社会は、もはや『格差社会』などという生ぬるい言葉で形容すべきものではない。それは明らかに、『階級社会』なのである」。

従来は、資本家階級、新中間階級、労働者階級、旧中間階級という4階級構造であったが、労働者階級が正規労働者とアンダークラスに分断され、現代の5階級構造へ転換したというのです。「そこに表れるのは、アンダークラスという新しい下層階級を犠牲にして、他の階級が、それぞれに格差と差異を保ちながらも、程度の差はあれそれぞれに安定した生活を確保するという、新しい階級社会の現実である」。

近年、ソーシャル・キャピタル(社会資本)という用語がよく使われるようになっています。「人々のもつ他者との信頼関係や人間関係のネットワークを指すものである。『社会資本』と訳してしまうと、通路や港湾のような社会基盤を指す言葉と混同されやすいので、このようにカタカナで表記されることが多い。ソーシャル・キャピタルは、人々の生活を支え、不安を和らげ、さまざまなストレスやトラブルから人々を守る効果をもつとされている。しかし、ソーシャル・キャピタルの量や質にも、階級・階層による格差があることが知られている。・・・アンダークラスは社会の底辺で、低賃金の単純労働に従事し、他の多くの人々の生活を支えている。長時間営業の外食産業やコンビニエンスストア、安価で良質の日用品が手に入るディスカウントショップ、いつでも欲しいものが自宅まで届けられる流通機構、いつも美しく快適なオフィスビルやショッピングモールなど、現代社会の利便性、快適さの多くが、アンダークラスの低賃金労働によって可能になっている。しかし彼ら・彼女らは、健康状態に不安があり、とくに精神的な問題を抱えやすく、将来の見通しもない。しかもソーシャル・キャピタルの蓄積が乏しく、無防備な状態に置かれている。他の4階級との間の決定的な格差の下で、苦しみ続けているのがアンダークラスである。この事実は、重く受け止める必要がある」。この指摘には、衝撃を受けました。

豊かさの連鎖、貧困の連鎖が抉り出されています。「親の豊かさは、その子どもたちに影響する。豊かな人々の子どもたちは恵まれた環境で、貧しい人々の子どもたちは貧しい環境で育つことになる。豊かな人々の子どもたちは恵まれた勉学環境の下で学力を身につけ、当然のように大学に進学する。これに対して勉学環境に恵まれない貧しい人々の子どもたちは、大学進学の機会を失う。そして大学を卒業しているか否かは、その後の人生を大きく左右する。こうして大人になったとき、豊かな人々の子どもたちは、自らも豊かな生活を送ることができるが、貧しい人々の子どもたちは、自らも貧しい生活に甘んじることになる。親から子どもへと豊かさが連載し、貧しさもまた連鎖するのである。このような傾向が多かれ少なかれあることは、古くから知られている。ここで格差が拡大すると、どうなるか。子どもたちの環境の格差はさらに大きくなるから、こうした傾向が強まる可能性が高い」。

格差の固定化は、個人レヴェルでは、貧困層など一部の子どもたちが教育を受ける機会を奪われるという人権上の大問題を生み、社会レヴェルでは、適切な教育を受ければ花開いたであろう多くの才能が貧困のために埋もれていくという、人的資源の莫大な損失を生じさせます。

著者は、所得格差を生む原因の解消策として、遺産の効果を弱めるための相続率の引き上げと、教育機会の平等の確保を提言しています。

格差問題を考えるとき、必読の一冊です。