榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

秘密国家化への危機感が書かせた本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1100)】

【amazon 『情報隠蔽国家』 カスタマーレビュー 2018年4月26日】 情熱的読書人間のないしょ話(1100)

あちこちで、ヒアシンソイデス・ヒスパニカ(スパニッシュ・ブルーベル、シラー・カンパニュラータ)が水色の花や桃色の花を咲かせています。最後の、水色の花はヒアシンソイデス・インスクリプタ(イングリッシュ・ブルーベル)です。両種はよく似ていますが、ヒスパニカは茎が直立して、どの方向にも多くの花を付けるのに対し、インスクリプタは茎が曲がり、一方向に花を付けますが、その数はヒスパニカより少なめです。因みに、本日の歩数は10,703でした。

閑話休題、『情報隠蔽国家』(青木理著、河出書房新社)の根底には、秘密国家化への危機感が横たわっています。

「ただ一紙、東京新聞だけは(外務省でアメリカ局長などを歴任した)吉野(文六)氏死去のニュースを1面トップに掲げていた。・・・いわゆる外務省機密漏洩事件の公判では、吉野氏も口を閉ざしていた。密約文書を外務省の女性事務官から『情を通じて』入手したと徹底指弾された毎日新聞の元記者・西山太吉氏を前に『覚えていない』『分からない』と繰り返すだけだった。だが、返還から30年以上経た2006年、北海道新聞の取材に密約の存在を認め、大きな波紋を広げた。仮に正義感ではなかったとしても、『国家のウソ』を『歴史の事実』にしてはいけないという外交官の、いや、人間としての衿持ゆえであったろう。それでも政府はウソをつき続けた」。この事件の判決は、物事の重要性を完全に取り違えています。

「(大正から昭和初期に反骨の筆を振るったジャーナリスト・桐生)悠々はこんなことも書いている。信濃毎日新聞主筆時代の論説である。<僕は元来甚だ心弱い。新聞記者として交遊を広くすると、特に要路者や、県や市の有力家らと往復すると、まさかの時に筆が鈍ぶる。斯うなると、つい友情の為に絡められて、ついに正義を曲げるようなことが出来しやしないか>。昨今、首相らと会食にいそしんで恥じないメディア幹部が多いらしい。彼らには、悠々の爪の垢でも煎じて飲ませたくなる」。全く以て、最早ジャーナリストとは呼べない、嘆かわしい輩です。

「史実を平然とねじまげようとする動きに、この時も沖縄は猛反発した。少なくとも過去の自民党は、これほど愚かでも蒙昧でもなかった。沖縄の基地負担は一向に軽減しなかったけれど、沖縄の歴史と痛みに寄り添う最低限の知性と配慮があった。小渕恵三。橋本龍太郎。野中広務。梶山静六。山中貞則。そうした人びとは、沖縄への配慮を常に胸に抱いていた。だが、最近は違う。特に現政権とその周辺に集う人びとには、沖縄の痛みへの配慮も、いや、基本的な歴史知識すらない」。もし自分の故郷が沖縄だったらと考える姿勢が必要なのです。

「思い出すのはナチスドイツの高官ヘルマン・ゲーリングの、あまりに有名な台詞である。<ふつう国民は戦争を望まない。それはどこの国でも同じだが、指導者が戦争を起こすのは簡単である。国民には『わが国は他からの攻撃にさらされている』と言い、戦争反対の平和主義者には『非国民』だと非難する。これだけでいい。このやり方は、どんな体制の国でも有効である>。あらためて記すまでもなく、大半の戦争は自衛のためと称して発動される。それを足下で盛んに煽るのは簡単だが危うい。しかしこの国はいま、与太な煽りが蔓延している」。ゲーリングは、恐ろしいほど本質を衝いています。

「悲しいかな、官僚にとって人事は最大関心事である。それを内閣人事局に牛耳られ、私的な会合で政権批判を口走っただけで更迭され、あるものをあると告発しただけで権力者から公然と罵られ、果てはプライバシーを暴露される。こんな政権下で、足下の官僚たちが首相や官邸に正面からもの申せるわけがない。・・・『腹心の友』や取り巻きに利益を誘導し、行政を大きく歪ませたと疑われても、足下の官僚から発せられる異論や反論に耳も傾けない。従順に屈服する者は優遇して褒美を与える一方、従わない者は容赦なく切り捨て、踏みつけ、果ては個人攻撃を加える。現政権の薄暗い横暴と独善は一種の恐怖政治であり、民主主義とは最も遠い地平にある。あえて皮肉交じりに極論すれば、首相や首相の取り巻きたちが一貫して敵視する国の政体と、どこか相似形である」。痛烈な皮肉です。

「伊藤忠商事の社長や会長を経て、註中国大使などを務めた丹羽宇一郎氏の新著『戦争の大問題』によれば、故・田中角栄首相は往時、新人議員にこう語っていたという。『戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが、戦争を知らない世代が政治の中枢となったときはとても危ない』」。さすが、田中角栄は将来のリスクを見抜いていますね。