榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

藤井聡太の凄さの背景を知りたくて、本書を手にしました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1124)】

【amazon 『中学生棋士』 カスタマーレビュー 2018年5月20日】 情熱的読書人間のないしょ話(1124)

黄色い花と長く伸びた黄色の雄蕊が優美で華やかなビヨウヤナギが目を惹きます。同じオトギリソウ科のキンシバイも黄色い花を咲かせています。桃色のサツキが敷き詰められた絨毯のようです。カシワバアジサイが白い花(正しくは萼)を重たげに咲かせています。我が家のアジサイが色づいてきました。小さなバラも頑張っています。因みに、本日の歩数は11,484でした。

閑話休題、実力と人間性を兼ね備えている人物、有名人で言うと大谷翔平や藤井聡太には、大いに興味を掻き立てられます。自分は言うまでもなく、両方を兼備している人間は滅多にいないからです。

そういう好奇心から、『中学生棋士』(谷川浩司著、角川新書)を手にしました。

藤井の語彙力については、こう記されています。「みなが驚いたのは14歳の少年のボキャブラリーだった。連勝中、対局後のコメントに『望外の(喜び)』という言葉があった。・・・対局後に『(勝てたのは)僥倖でした』という発言もあり、14歳の口から出た『僥倖』という言葉自体が話題になった。・・・『楔』『対峙』など中学生らしからぬ語彙はこの(羽生善治に勝った)自戦記にもある。雑誌の場合、筆者の原稿に編集者が手を入れて完成させることはよくあるが、『将棋世界』編集部は『一字も直しませんでした』と証言している」。

藤井の語彙力を培ったのは、豊富な読書量のようです。「中学校に通いながら、奨励会で勝ち抜くために将棋の勉強をするだけでも手いっぱいのはずなのに、中学生にしてなかなかの読書家のようだ。本人は『家にたまたまある本を読んでいるだけです』と話すが、新聞も毎日目を通しており『隅から隅までというわけではないですが、国際面をよく読む』という」。

谷川は藤井の実力をどう見ているのでしょうか。「藤井四段(当時)の現段階の実力はプロ棋士中、ベスト20に入っているかどうかといったところだろう。ただ、その実力が依然、急成長中である点が末恐ろしいところなのだ」。あれよあれよという間に七段になってしまった藤井の実力は、「末恐ろしい」というレヴェルを超えているように思われます。

藤井の将棋の凄さはどこにあるのでしょうか。「私が藤井四段に驚いたのは、29連勝という記録以上に、その間の将棋の内容である。連勝中の将棋には、明確な悪手がほとんどなかった。勝ち将棋というのは、決定的に悪い手がないからこそ勝つわけで、当然といえば当然だが、とにかくミスが少ないのだ。危ない将棋も数局あったが、ほとんどの将棋は、中盤までに優勢を築き、そのままリードを保って勝ちきっている。徐々に差を広げ、手厚く押し切るような勝ち方をしていた。相撲にたとえれば、相手にほとんどまわしもとらせず、押し出すような将棋だった。彼は小学校6年生から詰将棋解答選手権で3連覇を続けている。これは将棋において、終盤の『詰むや詰まざるや』の局面でいちばん力を発揮するタイプであることを意味する。・・・序盤の指し方にも、藤井四段はすぐれたセンスを持っている。私や羽生善治三冠も、十代のことの序盤は相当に粗かったが、藤井四段にはそういう様子がみられない」。一言で言えば、弱点がないということのようです。

藤井は将棋ソフトをどう見ているのでしょうか。「彼は、自分が指した将棋はすべてソフトに入れ『対局中の自分の形勢判断と照らし合わせてソフトの評価値はどうだったのか、あるいは自分の気付いてない筋があったかどうか』などを調べているという。最近は本当に強いソフトがフリーソフトとして無料で公開されている場合が多く、藤井四段が使っているソフトも『ごく普通にあるフリーソフト』で「セカンドオピニオンを聞きたいときもあるので、複数使っている』という。ソフトの判断を絶対視はしていない。・・・藤井四段に将棋ソフトと対戦した場合の勝算を聞くと『現状では、将棋や囲碁の分野で、コピュータと人間が戦う時代ではなくなってきたのかなという感があります』と対決の時代が終わったことを彼も認めた。これはプロ棋士共通の思いといわざるを得ない。そこまで強くなった将棋ソフトを研究に使うというのは自然の流れかもしれない」。

谷川は将棋から何を学んだのでしょうか。「将棋を通じて私が会得したことは、他の分野にも置き換えることができるようにも思う。一局の将棋の中に、人生そのものに通じる教訓が詰まっていると感じることが多いからだ。優勢な将棋が、一手のミスによって、一転劣勢になることは数知れない。では、なぜ優勢な将棋でミスを犯してしまうのか。優勢な将棋を劣勢にしてしまうときは、勝つ方法が複数ある場合が多い。勝ち方が3つ、4つと増えるほどに間違いやすいのだ。その勝ち方のうちで、いちばん安全な勝ち方を選ぼうとするがゆえに、そこに気持ちの緩みが生じたりする。逆に、勝つためには1つの道筋しかないときは間違いにくい。人生においても、成功への道が1つしかないときの方が、あれこれ迷うことも気の緩みが生まれることもなく、成功につながりやすいのではないか」。

藤井が将棋界の頂点に立った時、谷川がどう評するのか楽しみです。