全国を遍歴し、一木造の仏像を奉納し続けた遊行僧・木喰上人の生涯・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1183)】
散策中に、オオスズメバチがアリたちに攻撃され、弱っていく過程を目撃しました。葉の縁が白く彩られているハツユキソウが涼しげです。カンナが黄色い花を咲かせています。因みに、本日の歩数は10,793でした。
閑話休題、『木喰上人』(柳宗悦著、講談社文芸文庫)には、情熱が籠もっています。一つは、世から忘れ去られた江戸後期の遊行僧・木喰(もくじき)上人の「本願として(千躰の)佛を作り因縁ある所に之をほどこす」ことに92年の生涯を捧げた情熱、もう一つは、たまたま出会った木喰仏に魅入られ、日本全国に遺されている木喰仏を求めて全国を歩き回った、民藝運動で知られる柳宗悦(やなぎ・むねよし)の情熱――です。
その出会いは、このように記されています。「二躰の仏像は暗い庫の前に置かれてありました。・・・私は即座に心を奪われました。その口許に漂う微笑は私を限りなく引きつけました。尋常な作者ではない。異数な宗教的体験がなくば、かかるものは刻み得ない――私の直覚はそう断定せざるを得ませんでした。・・・その折私は始めて小宮山氏から『木喰上人』と云う名を聞かされました」。ここから柳の全国に跨る木喰研究が始まったのです。
木喰が全国を旅し、自ら刻んで、訪れた先に奉納した一木造の仏像は、伝統的な仏像彫刻とは全く異なり、独特の雰囲気を漂わせているが、柳も書いているように、温和な微笑が印象的です。木喰より86年昔の遊行僧・円空の粗削りで野性的な円空仏とは趣を異にしています。
木喰は木喰仏だけでなく、夥しい数に上る和歌も詠んでいます。「●木食の 心のうちを たづぬれば われよりほかに 知る人もなし ●木食の 悟る心は ごくふかひ どこがどうとも わからざりけり ●木食も 悟りてみれば なまざとり にえたもあれば にへぬのもあり ●いつまでも おる娑婆なれば よけれども 今にも行ば 捨る寶ぞ」。柳は、これらの和歌に木喰の深い宗教的境地を認めているが、私には異論があります。見る者に直截訴えてくるものがある木喰仏と異なり、韜晦的で、いささか人を食っているように感じるのです。