興福寺の阿修羅像の顔の内側には、表面の三面とは異なる表情の原型があった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1288)】
マユミの桃色の実が熟すと4つに裂け、赤い種が現れます。トキワサンザシが赤い実を、タチバナモドキが橙色の実をびっしりと付けています。どちらもピラカンサ属の植物です。今日はハロウィーンですね。因みに、本日の歩数は12,727でした。
閑話休題、『阿修羅のひみつ――興福寺中金堂落慶記念』(興福寺監修、多川俊映・今津節生・楠井隆志・山崎隆之・矢野健一郎・杉山淳司・小滝ちひろ著、朝日選書)は、文字どおり、興福寺の阿修羅像の内面にまで迫っています。
興福寺の阿修羅像は、身長153.4cm、体重14.85kgの、布の本体を漆で固めた「張り子」で、実に華奢な体をしています。表面の漆は薄く、もろい構造なのです。少年とも少女ともとれる、物憂げな表情は、よく知られています。
本書は、各分野の専門家による5つの考察で構成されています。
とりわけ興味深いのは、X線CTスキャナによる阿修羅像の画像解析の調査結果です。
この調査の目的は、●阿修羅像が文化財として痛んでいないか判断するための健康診断、●阿修羅像がどのような技術で創作されたのかを知ること、●CT調査から得た三次元情報を3Dプリンタなどの最新工業技術を使って再現することによって、誰も知ることができなかった阿修羅像制作時の秘密を明らかにすること――の3つです。
制作時の秘密に関し、内側に残る顔の発見には驚かされました。「阿修羅は三面六臂で、現在の阿修羅像の顔の内側に残る麻布の凹凸を反転した結果、塑土の顔が新たに現れた。さらに、内側の塑土の顔に麻布と木屎漆を盛り上げて造った顔を三面それぞれに再現した。・・・再現をお願いした山崎隆之氏によれば、左脇面の原型は、微かに怒りを含んだような、きりっとした青年相で、完成像の厳しい表情に比較的近い状態だそうである。これに木屎を付けると両眉の蕨手状の眉頭が密着するために険しさが強調される。中央面の原型は細面で表情はきつく、とくに両眉が連なっていて、これに木屎を付けても完成像のような柔和な表情にはならないそうだ。右脇面は頬に膨らみがあり、下唇を噛んだ完成像と大きく違う。下唇があること、口が微かに開いていることなどがそれである。木屎を付けてみると童顔であどけない表情になるとのことであった」。原型の表情から、現在、私たちが見ることのできる完成像の表情へ変わった理由は何なのか、興趣は尽きません。