榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

鳥のオスは一夫多妻を目指し、メスは相手を選り好みする・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1306)】

【amazon 『「おしどり夫婦」ではない鳥たち』 カスタマーレビュー 2018年11月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(1306)

今日は、思いがけない出会いに恵まれました。千葉・柏の大堀川で長年、カワセミの観察を続けている、90歳の富田昇氏から絶好の観察場所を教えてもらうことができたのです。1~2枚目は、その場所で私が撮影したカワセミの雄です。3~17枚目の富田氏の撮影作品では、カワセミのさまざまな生態が見事に捉えられています。因みに、本日の歩数は10,843でした。

閑話休題、『おしどり夫婦」ではない鳥たち――厳しい自然の中で進化した利己的な雌雄の姿』(濱尾章二著、岩波科学ライブラリー)には、鳥のオスとメスの間で繰り広げられている生殖戦略が記されています。しかも、最新の研究成果が盛り込まれているので、鳥好きには堪らない一冊です。

「種にとって有利か不利かとは関係なく、個体にとって自分の子を多く残す性質であることが、進化においては重要なのです。この本では、不倫や浮気、子殺し、雌雄の産み分けなど、一般にはあまり知られていない鳥たちの生態を取り上げます。鳥たちは野生動物として厳しい環境の中で生きています。厳しい進化の圧力のもと、子を残すうえで少しでも有利になる性質をもつものの子孫だけが、ふるいにかけられるように生き残り命をつないでいくのです」。

オスが多くの自分の子を残そうとするとき、一夫多妻という戦略があります。「日本で繁殖する種では、オオヨシキリ、コヨシキリ、オオセッカ、ミソサザイで、複数のメスとつがいになるオスがしばしば見られます。研究者の中には、身近に見られるウグイスも一夫多妻ではないかと考える人もいました。しかし、密に茂ったやぶの中に営巣するため観察が難しく、実態は『やぶの中』でした。・・・(大学院生だった私が)ウグイスでは一夫多妻がふつうに起きていることを明らかにすることができました」。

「オオヨシキリでは、ライバルのオスに勝ってよいなわばりを獲得し、複雑なさえずりでメスを引きつけることができる、強く優れたオスだけが一夫多妻となることができます。弱く劣ったオスはなかなかメスを得られず、独身のまま一生を終えることもあります」。

しかし、「実は、鳥類全体では一夫多妻の種は数%に過ぎません。90%以上の種は一夫一妻で繁殖しています。その理由は子育ての制約にあると考えられます。・・・鳥の子育てはとても手間がかかります。交尾をした後もつがいの絆を維持し、メスと協同で子の養育にあたることが、オスが自分の子を残すためになすべきことなのです。いわば『子がかすがい』となって、オスは不本意ながら一夫一妻を保っているというのが、多くの鳥の実情だと言えるでしょう」。

「(ウグイスやセッカなどの種では)メスが次々とつがい相手を変えることが、オスにとって新たなメスを獲得する機会となっているのです。ウグイスでは卵やヒナが捕食されることが多く、産卵を始めた巣のうちヒナを巣立たせるのはわずか2~3割です。卵やヒナを失ったメスは別のオスのなわばりに移り、巣作りからやり直します。巣立った場合も、続いて繁殖するときはなわばりを変えて行ないます。そのため、繁殖期を通じて、つがい相手を求めるメスが豊富にいることになり、オスは多くのメスを得ることができるのです」。

オスには、つがい外交尾を目指すという戦略もあります。「自分とつがいの関係にないメスと交尾(つがい外交尾)をして、卵を受精させるという方法です。つがい外交尾で子を残すことに成功した場合、産卵したメスやそのつがいオス(夫)が抱卵や育雛を行なうので、自分は子の養育にまったく労力を割かずにすむという利点もあります。実際に鳥のオスは、つがい相手を得ることと、つがい外交尾を行なうことの2つの手段を駆使して、自分の子を少しでも多く残そうとしています。人間の道徳や倫理に照らすと問題も感じる戦略ですが、つがい外交尾は一切しないなどというオスは、つがい外交尾をするオスに比べて少数の子しか残すことができません。子孫が繁栄せず、やがてその遺伝子は絶えてしまうでしょう」。

一方のメスの戦略を見てみましょう。「(メスが)質の高い子を残すには、パートナーとなるオスを選ぶことが重要です。何と言っても、子にはメス自身の遺伝子とともに、オスの遺伝子が半分入ってくるのですから。また、オスの遺伝子だけではなく、オスがもつなわばりも吟味が必要です。なわばりの中に安全な巣場所や、ヒナに与える十分な食物がないと、丈夫で生存力の高い子を育て上げることができないからです。メスは、少しでも優れたオス――よいなわばりをもつオス、捕食者から逃れる能力が高く病気にも強いオス――とつがいになろうとします。メスは、繁殖に際してパートナーを厳しく選り好みする性なのです」。

不倫(つがい外交尾)という戦略もあります。これはメスにとって、どういう利益があるのでしょうか。「鳥のメスは受精していない卵(無精卵)を産むことがあります。受精していないと、卵に投資した栄養や抱卵に使ったエネルギーが無駄になってしまいます。もし、つがいオス(夫)の精子の質や量に問題があって、受精がうまくいかないのならば、メスはつがい外交尾をして受精に保険をかけるのがよいでしょう」。すなわち、受精を確実にするためだというのです。

「受精を確実にすることのほかにも、交尾を求めるオスからの求愛給餌で食物をもらうことや、子の遺伝子多様性を高めることなど、いろいろな可能性が考えられています」。

もう一つ有力な説が紹介されています。「メスはつがい相手を厳しく選り好みし、健康で長生きすることができる質の高いオスとつがいになろうとします。しかし、実際には、繁殖地に渡ってきてオスを探してみると、質の高いオスはすでにほかのメスとつがいになっていて、夫の候補となる未婚のオスの中には、あまり質の高いものはいなかったということもあるでしょう。そのような場合、いわば『不本意』な相手とつがいとなったメスは、質の高いオスのつがい外交尾を受け入れることが予想されます。つがい外受精によって、子には質の高いオスの遺伝子が伝わり、健康で長生きすることが期待できるからです」。

さらに、驚くべきことが記されています。オオヨシキリのメスは、これから産む子が高い質に育ちそうなときはオス、そうでないときはメスというように、自分の置かれた状況のもとで、雌雄をうまく産み分けているというのです。

なお、鳥の交尾は、このように説明されています。「一般に、交尾は、オスが翼を広げてバランスをとりながらメスの体の上にとまると、一瞬のうちに終わります。鳥の交尾は総排出腔(お尻の穴の部分)を触れ合わせるだけだからです。鳥では哺乳類とは異なり、糞も尿の成分も精子(あるいは卵)も、同じひとつの穴から対外に出ていきます。総排出腔の接触だけで精子が受け渡され、精子は卵巣から卵が下りてくる輸卵管をさかのぼるように泳いでいきます」。鳥の交尾が一瞬で終わるのを不思議に思っていた私の疑問が解消しました。