今西錦司、伊谷純一郎の流れを汲む山際壽一のゴリラ学・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1375)】
タラヨウの雌株が赤い実を付けています。タラヨウの葉の裏に小枝などで文字を書くと、茶色く浮かび上がります。これが「葉書」の語源とされています。ウラクツバキ(タロウカジャ)が桃色の花を咲かせています。オオカブは直径が15cmもあります。因みに、本日の歩数は10,050でした。
閑話休題、講演・対談集『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(山中伸弥・羽生善治・是枝裕和・山際壽一・永田和宏著、文春新書)に収められている「山際壽一(京都大学総長)――挫折から次のステップが開ける」では、私の知らなかったことがいろいろ述べられています。
「今日は私の半世紀をお話ししようと思います。若いころからいろいろな挫折や失敗がありましたが、その経験がもとになって次のステップへと進めたと思うからです」。
「そこに現われたのが京都大学の人類学者、今西錦司です。今西さんは戦後すぐに『すべての生物は社会を持つ』と提唱した。サルもキリンもライオンも昆虫も、みんな社会を持つというわけです。これは、当時の学界からすると突拍子もない主張でした」。
「今西さんが説いた『動物にも社会がある』という主張を実証してみせたのが、私の師匠、伊谷純一郎さんです。伊谷さんは高崎山に住み込んでサルの群れに入り、餌づけをしながらサルの警戒心を解き、160頭ほどいるサルの一頭一頭に名前をつけました。そして行動を逐一記録してみると、群れの真ん中に強いサルがいて、そのまわりにメスたちがいる、そしてその周辺に弱いサルたちがいるという構造が見えてきた。それで、サルも社会を持っていることがわかるようになりました。これは『同心円二重構造』と呼ばれるモデルです。やがて、その研究に憧れた私は、伊谷さんの研究室に入りました」。
「日本の研究者がゴリラ調査から離れている間、アメリカの研究者が餌付けではなく、人づけの方法で調査に成功していました。人づけとは、自分自身が対象動物になったつもりで、その動物とともに行動して動物を馴らす調査方法です。餌を使って野生動物の警戒心をゆるめて近づき、間近で調査する絵づけとは異なり、時間もかかるし大変です。ゴリラの場合、馴らすのには5年から10年かかります。・・・アフリカでの調査を完成させたのが、アメリカ人のダイアン・フォッシーという女性です。・・・私は伊谷さんを通じてダイアン・フォッシーに弟子入りし、ゴリラの調査の方法を教えてもらいました。朝の4時半ごろに起きて、まだ暗いうちから自分で飯をつくって身支度をして、たったひとりでゴリラに会いに出かける。朝から晩までずっとゴリラにつき合って、暗くなったら帰ってきて飯をつくって食べて寝る。ほとんど人間と会わない生活です」。なお、フォッシーは1985年に、地元民の反感を買い、惨殺されてしまいます。
「ゴリラの社会では(ニホンザルとは異なり)序列がなく、共感性も高いので、ゴリラが遊んでいるうちに(オス同士の)性行動に発展する可能性がある。しかも、ゴリラは遊び上手です。性の世界と遊びの世界は紙一重といっていいでしょう。遊びに自分を変える要素があるのと同様に、性の世界も相手によって自分を変えたりします。遊びも性行動も、相手の気持ちをくみ取る能力がなければできませんし、上下関係がないからこそ、お互いの立場を変えることができるといえるのです」。
対談を終えた永田和宏が、山際をこう評しています。「山際さんの学問は、大学という場のなかで、研究環境を与えられてなされたものではない。フィールドワーク。アフリカへ一人で出かけ、現地の人達を味方につけながら、研究環境自体をみずから構築しつつなされたのが、山際ゴリラ学である」。若い頃、今西や伊谷の著書を読み耽った私にとって、彼らの弟子たる山際は興味深い存在です。