『西国立志編』が明治の若者たちのベストセラーになった理由・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1441)】
東京の杉並~世田谷を巡る散歩会に参加しました。大円寺では、久しぶりにオナガに出会うことができました。石段を上った龍光寺では満開のソメイヨシノを堪能することができました。和泉熊野神社、文殊院、元禄5(1692)年の銘のある庚申塔、井の頭街道石碑、玉川上水を訪れました。因みに、本日の歩数は25,301でした。
閑話休題、中村正直が翻訳して明治4(1871)年に出版した『西国立志編』は、100万部以上のベストセラーとなり、明治の若者たちの意欲を激しく掻き立てたことは、よく知られています。何がそんなに当時の若者たちの心を捉えたのか知りたくて、その原著である『セルフ・ヘルプ――自主独立の精神(完訳版)』(サミュエル・スマイルズ著、金子一雄・藤永二美訳、PHPエディターズ・グループ)を手にしました。
サミュエル・スマイルズが本書で伝えたかったことは、こういうことです。「若者に労苦を顧みず、自分を律し、全力で己の道を進むこと、そのためには人の助けや支援に頼るよりも、自ら努力するよう促すものである。しかし同時に、文学者や科学者、芸術家、発明家、教育家、事前活動家、宣教師、殉教者といった何人もの例からわかるように、help one’s self(自分を助ける)義務は、より崇高な意味で隣人を助けることも含んでいる」。
訳者が、こう述べています。「スマイルズが紹介した偉人たちが不屈の努力で成功や栄誉を勝ち得たことは紛れもない事実ですが、その過程では、家族や友人、関係者の理解、さらに精神的、金銭的支援があり、そうした『天の助け』がなければ、決して『自力』だけでは達成できなかったことも事実でしょう。だからこそスマイルズは、最終章で、努力や勇気、粘り強さに加えてcharacter(人徳)の大切さを説き、『真のジェントルマン』とは、思慮深く、辛抱強く、人に寛大で思いやりのあるgentle(優しい)man(人)である、と結び、人との関わりの重要性を強調したのではないでしょうか」。
読み終わって感じたのは、有名無名の700名近い実在の人物の考え方や行動、そして、その結果、得られたものが平易に語られていること、そして、そのいずれもが短いエピソードなので読者が焦点を絞り易いこと――が、当時の若者の心にダイレクトに響いたのではないだろうかということです。