オオカミの知恵――家族を愛し、託されたものたちの世話をすること。遊びをけっして忘れないこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1489)】
千葉・柏の「柏の葉公園」のバラ園には、さまざまなバラたちが全員集合しています。
閑話休題、『狼の群れはなぜ真剣に遊ぶのか』(エリ・H・ラディンガー著、シドラ房子訳、築地書館)には、著者のオオカミに対する愛が溢れています。
「オオカミ家族ほど心温まる自然のシーンはほとんどあるまい。映画などによくある、歯をむき出してうなる生物とは対照的に、野生オオカミの生活は愛情と遊び心に満ちた相互関係と調和を特徴とする。赤ちゃんは群れにとって大切な宝物で、愛され、かわいがられている。親はもちろんのこと、おじさんやおばさん、年上のきょうだいたちも、無私あるいは利他的と表現するほかないやりかたで扱う。高齢者や負傷者は、家族から食物をもらい、見捨てられることはない。群れに属するメンバーみんながそれぞれの位置をわきまえ、決定するのはだれかということを知っている。たえまない意思疎通や儀式を通して、たがいの愛情と敬意を常に確認し合う。家族の強い絆は、自然界で生き延びるチャンスを高めてくれる重要なプロテクターなのだ」。
「オオカミにとって、家族はすべての中心なのだ。家族は基礎であり、安全および安定性であり、生存目標のすべてでもある。家族のためなら、彼らは命を犠牲にすることもいとわない」。
「オオカミ家族においては、すべてのメンバーがグループにとって重要で、それぞれの役割を持っている。それがどこであるかを決めるのは、親でもリーダーでもない。オオカミの子どもたちは自分の強みを早いうちに知り、必要とあれば率先して力を発揮する。俊足のオオカミは狩りに欠かせないし、高く積もった雪の上を走るときはたくましいオオカミが先頭に立ってシュプール(足跡)をつける。また、強い忍耐力を持つオオカミは、ベビーシッターとして優れている。・・・オオカミの群れにも、平和な状態を取り戻す能力を持つものがかならずいて、吠えたりうなったりして対立するものたちのあいだに立ち、少しも動じることなく平然として待つ――心の強みを意識しながら。やがて波がおさまって全員が落ち着きを取り戻したら、みんなそろって日々の営みを再開する」。
「オオカミの群れでは、メンバー全員が経験豊かなリーダーに従い、リーダーは親として責任ある行動の手本を示し、家族にとって最良の決定をくだす。もちろん各メンバーには、自分の道を進んだりリーダーの決定に反対したりする可能性がある。個々のオオカミはそうした自由を持つが、それでも経験豊富なリーダーは最高の敬意に浴している」。
「オオカミ家族が機能するのは、無条件の堅い結束とたがいの世話があるからだ。高齢者や負傷者は群れの仲間に殺されるという記述がたまにあるが、それは囲い地オオカミなど不自然な状況で起こりうることで、野生の現実には当てはまらない。狩猟やライバルとの戦いでオオカミが負傷する状況に何度も出会ったが、家族のメンバーがたえず面倒をみる。狩猟に出るときは、だれかが負傷者のそばに残り、戻るときは食物を運んでくる。ほかのオオカミが前消化した餌を吐き出して高齢者に与えるところを見たこともある。ふつうは赤ちゃんオオカミにしかしないことなのに。このように病気または高齢のオオカミは、ぐあいがよくなるまで養われる」。
「仲間の世話をすること――これは人間とオオカミに共通する性質といえる。類人猿でも、大人の雄が面倒をみるのは子どもが小さいうちに限られる。雌か雄かを問わず、年間を通して食料を運び、家族のだれかが病気になれば世話をするのは、人間とオオカミだけが持つ性質だ」。
「群れを統率し、決定をくだすリーダーを昔は『アルファ雄オオカミ』『アルファ雌オオカミ』と呼んだが、この表現はもはやすたれ、野外調査で使われることはない。現在は『リーダー』または単に『両親』と呼ぶ。アルファの概念は、囲い地オオカミの研究に由来する。・・・現在行なわれているような広範囲にわたる野生オオカミの観察は、以前は不可能だった。・・・こうして術語が訂正されると、オオカミの社会的行動についての思考に重要な変化が生じた。囲い地オオカミは(野生オオカミとは)異なる性質を持ち、どちらかというと『オオカミらしくない』行動をとることは、現在では知られている。彼らの生活は刑務所の囚人のそれと似ている」。
「オオカミのボディランゲージは包括的で、うなる、歯をむき出す、噛みつく、道をふさぐ、つつくといった威嚇のシグナルによって深刻な争いを回避する。顔をそむける、視線を落とす、無視する、前足でなでる、といった和平的なシグナルで社会的ストレスを緩和し、触れ合う、添い寝する、並んで走る、なめる、毛皮を口ではさむ、などの和解のシグナルはおたがいの理解を深め、仲直りするのに役立つ」。
「オオカミの知恵――家族を愛し、託されたものたちの世話をすること。遊びをけっして忘れないこと」が、著者の結論です。
本書を読んで、オオカミに対する思い込みを全面的に改める必要性を痛感しました。