榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

物書きは「調べる」が9割9分5厘6毛・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1580)】

【amazon 『読みたいことを、書けばいい。』 カスタマーレビュー 2019年8月15日】 情熱的読書人間のないしょ話(1580)

森の奥の小さな堂の軒下では、ウスバカゲロウの幼虫のアリジゴクたちが巣を数十も作っています。我が家で成長した多くのセミたちが旅立っていきました。今宵は、満月に叢雲。因みに、本日の歩数は10,040でした。

閑話休題、型破りな文章論が展開されている『読みたいことを、書けばいい。――人生が変わるシンプルな文章術』(田中泰延著、ダイヤモンド社)を読んで、印象に残ったことが、3つあります。

第1は、「どう書くのか」に対する回答です。「この本では一貫して『自分がおもしろいと思えるように書けばいい』と主張している。だが、自分がおもしろいと思えさえすれば、必ず他人もおもしろいのか。そんなわけはない」。

第2は、「物書きは『調べる』が9割9分5厘6毛」という割り切りです。「人間が創造したものにはすべて『文脈がある』。原型がある。下敷きがある。模倣がある。引用がある。比喩がある。無意識がある。それらは、作品を構成している文脈=ファクトだ。たとえば、物語の構造は類型だらけだ。古代神話、聖書、史実、シェイクスピアの作劇など、物語の基本構造は出し尽くされていると言ってもいい。そのどれかを選んで、21世紀に必要かどうかを問いながら新しさを加えているのが、いまある表現だ。・・・書くという行為において最も重要なのはファクトである。ライターの仕事はまず『調べる』ことから始める。そして調べた9割を棄て、残った1割を書いた中の1割にやっと『筆者はこう思う』と書く。つまり、ライターの考えなど全体の1%以下でよいし、その1%以下を伝えるためにあとの99%以上が要る」。

第3は、「感動が中心になければ書く意味がない」という指摘です。・・・「(書こうとする)対象を『愛する』方法には2つある。●資料を当たっていくうちに『ここは愛せる』というポイントが見つかる。●ざっと見て『ここが愛せそうだ』と思ったポイントの資料を掘る。自論を強化するために良い材料をそろえる。・・・『わたしが愛した部分を、全力で伝える』という気持ちで書く必要があるのだ。愛するポイントさえ見つけられれば、お題は映画でも牛乳でもチクワでも良く、それをそのまま伝えれば記事になる」。

おまけとして、「編集」を著者らしく巧みに表現した言葉を引用しておきましょう。「自分が最も心を動かされた部分だけをピックアップして、あとは切り捨てる『編集』をするのは、自然なことだ。人には、訊かれたならば、これだけは伝えようと思う話がある。たくさんある情報の中で、『伝えたい』ものを拾いあげてトピックにすること。そして伝えたい部分にたどり着くために、必要な手順を踏んで、過程を示す。それが長い文章を書く意味なのだ」。

何度も頷いてしまいました。