榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ゲーテは、重々しい人物どころか、軽はずみな人間だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1587)】

【amazon 『ゲーテさん こんばんは』 カスタマーレビュー 2019年8月22日】 情熱的読書人間のないしょ話(1587)

クレオメ(セイヨウフウチョウソウ)が赤紫色の花を、コヒルガオが桃色の花を、ウコンが白い花を咲かせています。コブシが赤い実を付けています。因みに、本日の歩数は10,603でした。昨晩は、異なる分野の仲間たちとの意見交換で、思いがけないヒントを得ることができました。

閑話休題、私のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ好きは、亡き父親譲りです。ところが、『ゲーテさん こんばんは』(池内紀著、集英社文庫)の著者・池内紀は、ゲーテは、思われているような重々しい人物どころか、至って軽はずみな人間だったと言うのです。本書は、その証拠集といった趣です。

女性に対しては、その気にさせておきながら、いざとなると逃げ腰になるというのです。「実際、ゲーテはいつも逃げた。女性とのかかわりが切迫してきて、決断へと踏みきる手前で逃走した。ライプツィヒの学生のときに知り合ったケートヒェンからも、ゼーゼンハイムの牧師館の娘フリーデリケからも、ことが現実的なけはいを見せだすと逃げ出した。リリーとの婚約を、これといった理由もなしに解消した。いや、理由がなかったわけではない。婚約に引きつづくはずの事柄という理由があった。恋愛の延長の婚約までは許せるが、婚約の延長の結婚は我慢がならない。ある男性と婚約中のミラノ女に恋をした。彼女が婚約を解消してゲーテを待ったとき、彼はもはや来なかった」。

著作以外の仕事面では、小国の責任者として苦労したようです。「ゲーテは顧問官から枢密顧問官に、そして33歳のとき内閣首席、財務局長官のポストにつき、20年あまりにわたってその任にあった。小さい公国とはいえ、さぞかし財務に苦労したことだろう」。

ゲーテの代表作『ファウスト』の主人公、ファウストは実在の人物だというのです。「たしかにこの世に生きた人物である。ごく断片的だが記録が伝わっていて、おおよそのところがわかる。・・・伝説の、つまりは民衆の英知を、ゲーテはちゃっかりといただいた。あらためていうまでもなく伝説のファウストは錬金術師、また妖術師でなくてはならない。学問と魔術によって富と権力を手にしたいと願ったからだ」。

ゲーテが62歳の時、41歳のルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンと湯治町で数日を共にし、それから間もなく再会した際の様子が描かれています。「このピアノの巨匠との会話がゲーテには、あまりたのしいものでなかったらしいことは、友人の音楽家ツェルター宛の手紙からみてとれる」。

妻を亡くして7年目のゲーテは、湯治町マリーエンバートで、未亡人のレヴェツォ夫人の長女ウルリーケに夢中になり、結婚を申し込みます。「このときゲーテは74歳(=正確には73歳)。レヴェツォ家では、夫人に対する求婚と思ったようである。ところが、19歳のウルリーケがご所望とわかって、うろたえた。夫人なのか娘なのか、再度確認したのち、『いましばらくのご猶予』を願い出て、母娘ともども、あわただしくマリーエンバートを去り、カールスバートへ移っていった」。この失恋事件は、ゲーテに「マリーエンバートの悲歌」を書かせることになるが、客観的に見れば、老人が遥か年下の娘に言い寄り、当然のことながら、振られたということでしょう。