榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「官邸官僚」は、首相の虎の威を借るキツネだ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1628)】

【amazon 『官邸官僚』 カスタマーレビュー 2019年10月2日】 情熱的読書人間のないしょ話(1628)

ジュウガツザクラ(十月桜)が淡桃色の花を咲かせています。イイギリの実、カラスウリの実が赤く色づいています。あちこちで、ヒガンバナ属のヒガンバナ(赤色)、シロバナマンジュシャゲ(白色)、ショウキズイセン(ショウキラン、リコリス・トラウビ。黄色)が咲き競っています。因みに、本日の歩数は10,017でした。

閑話休題、『官邸官僚――安倍一強を支えた側近政治の罪』(森功著、文藝春秋)は、あまり知られることのない「官邸官僚」の水面下の動きに肉薄しています。

「官邸官僚」は、「出身省庁を離れているが、官邸を根城に絶大な権力をふるう、従来の『官僚』像とは異なる存在が『官邸官僚』である」と説明されています。

官邸官僚の代表的人物として、今井尚哉と和泉洋人にスポットライトが当てられています。出身省庁でトップになれなかった役人が官邸の威光を背景に霞が関を牛耳る異様な実態と不透明な行政の闇を抉り出すことに成功しています。

「いわば政府の重要政策と首相の私生活、両方の任務を担ってきたといえる。それが今井尚哉という官邸官僚である」。

経産省で今井の3年先輩に当たり、橋本龍太郎首相の政務秘書官を務めた経験を持つ江田憲司は、こう語っています。「『一応事務秘書官には省庁の担当があり、政務秘書官には担当がありません。何となく政治担当の秘書として存在しています。あくまでも黒子ですから、表向き秘書官そのものに権限はありません。しかし、実際にはその権限や役割分担が総理との距離感や信頼の度合いにより、いかようにも変わり得る。政務秘書官はひとえに総理の虎の威を借るキツネです』」。

「首相のスピーチ原稿から経済政策、果ては(専門外の)外交にいたるまで、ここまで思うままに政策を操れるのは、(安倍)首相から全権を委任されている自信が(今井)本人にあるからにほかならない。首相は直感的に相手を信頼し、任せきるタイプだ」。

「『今井ちゃんの頭の中を見てみたい』と首相が感服するほど、今井は発想が豊かで実務能力が高いといわれる。その分、周囲が愚劣に見えてしまうのかもしれない。日本的なコミュニケーションは苦手のように思える」。

「安倍政権に対する評価は、内閣を統べる政務秘書官の手掛けてきた政策の成果と重なる部分も少なくない。しかし、その評価は、首相や当人が思っているほど高くはない」。

「今井には『分身』『代理人』『懐刀』だけでなく、『振付師』との異名もある。だが検証すれば、その振付は、ことごとく的を外しているのではないか」。

「当の本人は自らの行動原理について『すべては安倍晋三のため』と言ってはばからない。だが、その姿はしばしば独善的で傲慢に映る。焦点になっている豪腕秘書官の森友・加計問題への関与はあったのか――」。

「一強と呼ばれる首相の力を背景に、今井は独自の政策を推し進めてきた。その政策は、自らが経産官僚だったお時代に実現できなかったことも少なくない。一つが、得意とするエネルギー政策だ。わけても原発推進論者として知られる今井は、東電の福島第一原発事故後も、民主党時代の脱原発政策に対し、異を唱えてきたとされる」。

「今の安倍晋三政権は、政権ナンバーツーである官房長官の菅義偉と副総理兼財務大臣の麻生太郎という二人の実力政治家に支えられているという。が、その実、霞が関の官僚抜きでは、とても政策の立案や行政の執行はおぼつかない。一強と持て囃されてきた安倍政権の政策を実現する官僚たちを従え、指図してきたのは誰か。事実上、高級官僚を動かしているキーパーソンが何人か存在する。その代表格が、政務秘書官の今井尚哉であり、首相補佐官の和泉である。加計問題で評判になったように、文字どおり首相や官房長官になり代わり、ときに中央官庁の幹部たちを呼びつけ、直接指令を飛ばしてきた。総理の影が官房長官の菅なら、和泉は影の影とでもいえばいいだろうか。いまや霞が関最強官僚の一人といっていい」。

「警察庁出身の官房副長官、杉田和博は、首相秘書官や首相補佐官といった『官邸官僚』の上位に立つ。同じ警察官僚で現在、内閣情報官を務める北村滋との杉田・北村ラインで安倍政権のインテリジェンス情報を握り、守護神として機能してきたとされる。加計学園問題では、『総理のご意向』文書の存在を告白しようとした元文科事務次官、前川喜平の出合い系バー通いが、突如不自然な形で読売新聞に封じられた。この件について、前川に従前から再三警告を発していたのが杉田だ」。

「2015年6月、(安倍や菅と親しいジャーナリストの)山口(敬之)に対しフリーの女性ジャーナリスト(伊藤詩織)への準強姦容疑で逮捕状が発令された。その警視庁の捜査に対し、北村が刑事部長に指示し、逮捕に待ったをかけたのではないか、と週刊新潮などが報じた一件である」。

巻末の、「官邸官僚たちが、この先も安倍政権を支え続けるのだろう。彼らがおこなってきた恣意的な偽装工作は、とうの昔に行き詰っているはずなのに、無理やり政権を維持してきた。そこに、とてつもない無気味さを覚える。いったい戦後の日本を背負ってきた高級官僚たちの矜持は、どこへ消し飛んでしまったのだろうか」という著者の嘆きが胸に沁みます。しかし、『平家物語』も、「盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)をあらは(わ)す。おごれる人も久しからず、唯(ただ)春の夜(よ)の夢のごとし」と、言っているではありませんか。