光源氏や源氏を取り巻く女性たちの老後の生き方から何を学ぶか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1712)】
ヤツデが白い花を咲かせています。レッドロビンが赤い実を付けています。タチバナモドキが橙色の実を、トキワサンザシが赤い実をびっしりと付けています。どちらもピラカンサ属の植物です。因みに、本日の歩数は10,968でした。
閑話休題、『光源氏と女君たち――十人十色の終活』(石村きみ子著、国書刊行会)では、光源氏や源氏を取り巻く女性たちの老後の生き方が考察されています。誰も避けることのできない老いに対して、彼らはどう対応したのか、そこから私たちも学べることがあるのではないか――というのが、著者の目論見です。
私は、『源氏物語』の中では準主役級の女君、朧月夜と花散里の生き方にとりわけ興味を惹かれました。
「朧月夜がみせる恋と人生の鮮やかな結末、あっぱれな終活」は、このように綴られています。
宮中での桜の宴の後、源氏は偶然出会った若い女性に求愛します。「官能の一夜もすぐに春の早い夜明けの訪れに、互いに名乗る暇もなく、逢瀬の証に扇を交換して別れる。・・・交わした扇をたよりに再び逢瀬を重ねた源氏は朧月夜の女が弘徽殿女御の腹違いの妹、六の宮の姫君と知る。しかも自分の兄である東宮(後の朱雀帝)に入内が予定されている姫君である。・・・許されぬ恋に二人は落ちてしまったのだ。兄を裏切ったとわかっても朧月夜の姫君との甘美な恋愛は楽しい。朧月夜も東宮よりも源氏との華麗な関係に積極的にのめり込んでくる。平安時代には稀な、自分の恋心に正直な官能的な姫君である。物語の女君の中で、現代の女性の読者にとても人気が高いのもこうした恋愛を第一に思う近代的な女心が好かれるのだろう。二人の危険な逢瀬は醜聞となり、東宮への入内は叶わぬことになるが、東宮のたっての望みで妃の地位ではなく尚侍となって参内し、美貌と明るい性格は東宮から朱雀帝となってもなお寵愛を受ける。宿下がりの折りには源氏を呼び出して逢瀬を楽しむ。朱雀帝はかねてから源氏の魅力に自分はかなわないと弱気でもあり、二人の関係を感じつつも責めることは無かったが、宿下がりの密会を右大臣につかまれ、弘徽殿女御の逆鱗に触れる事件に発展する」。
「朱雀帝の誠実な愛を感じつつも源氏との危険で官能的な愛を楽しむこの関係は朧月夜の40代まで、27年間もの長いあいだ続く。・・・(源氏が老いを感じ出した頃)長年の恋人、朧月夜が出家したことを源氏は聞き、悲しく名残を惜しむ。出家をほのめかすようなことも聞かされていなかったのに、と唐突ぶりに不満気である。・・・妻なら共白髪で昔語りも絵になる。しかし源氏とはあくまで危険で楽しい恋人同士のままで幕引きをしたかったのではないか。少々軽い感じで、若い時から無鉄砲で、親不孝でも美人だからもてて、身勝手と思える彼女の、物語での登場の最後にこうした決断が来るとは、意外で、ちょっと痛快でさえある。・・・源氏には予想外のダメージを与えたけれど、朧月夜という女性の1千年も前の、華麗な恋と人生に自ら見事に始末を付けた終活はあっぱれですばらしい」。
「花散里は平安時代のキャリアウーマン、見事に自立した終活」には、いろいろと考えさせられました。
「花散里が『源氏物語』にはじめて登場するのは光源氏が25歳の五月雨の頃。父故桐壷帝の妃の一人麗景殿女御を訪ね、妹の三の宮とも逢う。この姉妹は桐壷帝亡き後は源氏の庇護のもとに暮らし、三の宮(花散里)とはすでにかなり前から恋人同士であったことを読者は知る」。
年を経て、「妻として、女としてはあまり見栄えのしない、性格も地味な彼女(花散里)の、しかし家庭的な性格に加え、上流貴族の品格、資質を充分に活かした(一族の貴公子や姫君の)養育のスペシャリストとしての才能を源氏は高く評価していたことが読者にも⑦初めてわかる。・・・『源氏物語』の中の数多くの女君の中に自らの才知でキャリアを積んでいった女君を登場させたことが1千年後にも新鮮さを感じる。・・・源氏の妻、関係した女君の中で、お情けではなく、自立して若者たちに囲まれた生活を送った。当時としては、とても恵まれた老後を自ら勝ち取った女性であった。1千年後の今でも羨ましいような、上手な老い方、見事な終活である」。