榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

無名の人物にも照明を当てた、日本人の名言集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1733)】

【amazon 『日本人の叡智』 カスタマーレビュー 2020年1月13日】 情熱的読書人間のないしょ話(1733)

今日こそカケスの写真を撮るぞと意気込んで、狙い定めたスギ林に入り込んだところ、三脚付きの大きな望遠鏡・カメラを抱えた先客がいるではありませんか。私より7歳年上の市村さんというヴェテラン野鳥撮影家でした。市村さんに付いて3時間ほど歩き回ったが、市村さんとは異なり、私は不鮮明なカケスの写真しか撮れませんでした(涙)。鮮明な2枚は市村さんが撮影したものです。ツグミ、セグロセキレイ、ジョウビタキの雌、メジロをカメラに収めました。幾分緑みを帯びたツグミも見つけました。因みに、本日の歩数は10,566でした。

閑話休題、『日本人の叡智』(磯田道史著、新潮新書)は、日本人の名言集であるが、無名の人物の言葉も含まれている点が類書と異なっています。「古めかしい書物のなかに、無名ながらこれは素晴らしいと思える人物に出会ったとき、宇宙の彼方までいけるほどに深遠な哲学的な言葉に触れたとき、ぶったおれるほどの感動をおぼえる。とりわけ、ミミズがのたくったような古文書の文字を読み解くうちに、きらめくような一行をみつけだし、誰も知らない真実をみてしまった瞬間がたまらない。そのために生きているようなものである。20年、毎日のように、このような暮らしをしていて、感じたことがある。人は、かならず死ぬ。しかし、言葉を遺すことはできる。どんなに無名であってもどんなに不遇であっても、人間が物事を真摯に思索し、それを言葉に遺してさえいれば、それは後世の人々に伝わって、それが叡智となる。この叡智のつみかさなりが、その国に生きる人々の心を潤していくのではないか」。

寵愛――。<飯はいつにても、よき物なり。しかし、なにも、うまき風味はなし>曽呂利新左衛門。「『コメの飯のように、さして味はないが、退屈もせず、気遣いもいらない、(主君に気に入られたいのなら)それをめざしておゆきなさい』。最後に言い放った言葉がふるっている。<主君の寵愛というものは必ず久しからぬものなれば、その心をもって媚びず諂わずして真っ直ぐに奉公したまうべし。外に伝授もヘチマもいらず>。人間は自然体が一番。これが人間関係の秘訣らしい」。

清貧――。<出る月を待つべし。散る花を追うことなかれ>中根東里。「中根東里は徳川時代に存在したあらゆる学者のなかで、もっとも清貧に生きた人。驚くべき思想の高みに達しながら、世に知られず、今日まで埋もれている不思議な人物である。・・・この言葉は人生のすべてにあてはまる。人生において歓喜の瞬間は短い。大切な人との別れもくる。しかし、桜は散っても、月は必ず出てくる。それを待つ時間をどのように大切に生きるか」。

合理――。<理屈と道理のへだてあり。理屈はよきものにあらず>三浦梅園。「富士山の如く思想家にもただ一人そびえたつ者がいる。三浦梅園は日本人のほとんどが迷信や陰陽五行説にとらわれていたとき、西洋近代の科学哲学にひけをとらない思考を、大分の寒村で繰り返していた、奇跡のような人物である。・・・重力・引力の存在にまで思いが及んだ。ついには西洋の天文学も学び、彼は江戸中期の日本で宇宙と世界を最も理解した人物になっていた。彼は人間が作った理屈と自然の道理は違うといった。親が羊を盗み、その子に、たとえ親でも悪は悪、訴えろ、というのは理屈。親の悪事を子が隠したくなるのは道理。両者は違う。梅園は人間の作った理屈にとらわれない道理の探求を重視。この国の思想を大きく合理主義の方向にもっていった」。

読書――。<実業家宜しく歴史を読むべし>山路愛山。「『実業家も歴史を学べ。事業の専門知識だけでは足りない』と声高にいった最初の人だ。・・・個人が自分の歴史観・世界観をもつには読書が要る」。

鍛錬――。<自分を鍛ふ為めに困難が湧いて来るのぢやと思へば、如何なる困難が来ても少しも辟易することなく、益々勇気が加はる>森村市左衛門。「森村は『人間の成功は財産の多い少ないではない。自ら顧みて良心にやましい所がなく正直な努力を誇りにする人になれば、周囲に信用され、心中の平和と愉快とをもって日々を楽しく暮らすことができる』といっている。人生の目的を人格の完成とそれによる心の安定におく人間は強くまた幸せになれる。これもまた歴史のなかの一言である」。

器量――。<誰それは気にくはん等言ふやうな狭量なことでは仕事は出来るものぢやないよ>杉浦重剛。

心痛――。<心配すべし。心痛すべからず>馬越恭平。「心配するな、とよくいうが、心配せねば危険の察知も事前の配慮もできぬ。心配はうまく使えば安全の母であり成功の友だ。ただ心配しすぎてはいかぬ。このことをずばりといった男がいる」。

努力――。<それでどんな失敗をしても、窮地に陥っても、自分にはいつかよい運が転換してくるものだと、一心になって努力した>高橋是清。「自分は運がいいと思って生きる大切さを物語っている」。

幸福――。<私の体験によれば、人生の最大幸福は家庭生活の円満と職業の道楽化にある>本多静六。「経済的に自立すると、仕事がお金のためでなくなり、いよいよ面白く、人一倍働ける。これが『職業の道楽化』で。家庭円満なら人生は幸福といった」。