榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

英国の准男爵が領地を野生に戻したら、野生生物たちが続々とやって来た・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1760)】

【amazon 『英国貴族、領地を野生に戻す』 カスタマーレビュー 2020年2月8日】 情熱的読書人間のないしょ話(1760)

ウソの群れに出会い、雄、雌を撮影することができました。ルリビタキの雌、モズの雄、雌をカメラに収めました。池には薄氷が張っています。因みに、本日の歩数は10,705でした。

閑話休題、『英国貴族、領地を野生に戻す――野生生物の復活と自然の大遷移』(イザベラ・トゥリー著、三木直子訳、築地書館)は、野生生物好きには堪らない一冊です。

本書は、イギリス南東部、ウェスト・サセックスの一角に立つ瀟洒な城に暮らす准男爵・バレル家の人々が、その広大な地所を野生に戻した記録です。

訳者あとがきには、こうあります。「由緒正しき家系ではあるが、農業の近代化とグローバル化によって、農業による地所の経営はもはや成り立たなくなり、経営破綻の危機に直面する。そんな彼らが運良く見出した生き残りの道が、地所を農地化前の自然の状態、野生生物の王国に復元する、という『再野生化』プロジェクトだった」。

「農薬と大型の農業機械頼みの近代的な耕作をやめたとたん、それまで雑草一つ生えていない、整然と耕された畑だったところは、さまざまな草花に覆われ、低木が生い茂り、近隣の村人の顰蹙をかう『荒れ放題』の土地になっていく。と同時に、爆発的に虫が増え、野には野鳥があふれ、小型の野生生物が姿を現す。フンコロガシが、イリスコムラサキが、ナイチンゲールが、コキジバトが、ダイサギが戻ってくる。さらにはシカ、ウマ、ウシ、ブタなどの草食動物を放して自由にさせる。意外な場所で、思いもつかない生態を見せる野生の動物たちとともに、かつてこの地で見られたであろう自然の情景が蘇っていく――。本書には、クネップの地所で自然が自らを取り戻していくその過程が、行政との駆け引きや周囲の農家たちとの摩擦を含めて生き生きと描かれている」。

遂に、イリスコムラサキが飛来します。「それまでクネップでは記憶にある限りただの一度も目撃されたことのないイリスコムラサキが2匹、まだ若いサルヤナギの茂みの中を低く飛んでいるのを見た、と言ったときのマシューは、興奮を抑えきれない様子だった。その瞬間までイリスコムラサキは、天然林の指標動物でないにしろ、森の中にしかいないと考えられていたのである。泥水のたまりや、道や空き地で腐りかけた動物の死骸に舞い降りて餌を食べることはあるし、雌は幼虫の餌になるサルヤナギの茂みに産卵するが、林冠が閉鎖した古い森がイリスコムラサキの棲む領域であることは誰も疑わなかったのだ」。イリスコムラサキは、日本に棲息するコムラサキの近縁種で、コムラサキ同様、紫色の美しいチョウです。

ナイチンゲールも復活します。「私たちが再野生化を開始した2001年までには、クネップにはナイチンゲールがまったくいなくなってしまったようだった。・・・突如として再びクネップにナイチンゲールの歌声が戻ってきたのは驚きだった。そして今度はその数も多かったのである」。西洋ウグイスとも呼ばれるナイチンゲールは、日本のウグイスに外見が似ており、鳴き声も美しいが、日本人の私はウグイスの鳴き声に軍配を上げます(笑)。

さらに、コキジバトもやって来ます。「ナイチンゲールの到来も嬉しかったが、それよりもさらに興奮したのは、ほとんど絶滅の危機に瀕していたコキジバトがやってきたことだ」。本書の口絵写真のコキジバトを見た時は、本当にびっくりしてしまいました。なぜなら、我々がよく見かけるキジバトそっくりだからです。インターネットで調べてもコキジバトの鳴き声を確認することはできなかったが、本書の叙述から判断するとキジバトと同じと思われます。

「より自然に溢れた豊かな国を作る道程において、クネップは小さな一歩にすぎない。だがクネップは、再野生化は可能であること、野生化がその土地にいくつもの恩恵をもたらすこと、経済活動も生み出せること、自然と人間の両方にとって有益であること、そしてそれらすべてが驚くほどあっという間に起こり得る、ということを示している。何よりも素晴らしいのは、ここで――開発過剰で自然が失われ、人口密度が高いイギリスの南東部で――それが可能であるならば、世界中どこでも同じことが可能だということだ。それを試してみようという遺志さえあるならば」という著者の言葉が、胸に沁みます。

叶うことなら、クネップを訪れ、野生生物たちと存分に触れ合いたいと願っています。