榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

野中広務と野村克也という骨のある二人の考え方は、勉強になるぞ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1793)】

【amazon 『憎まれ役』 カスタマーレビュー 2020年3月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(1793)

サンシュユ、マンサクが見頃を迎えています。ベニバスモモ(アカバザクラ)、ハナモモが咲き始めました。モミジバフウの実は、まるで線香花火のようです。因みに、本日の歩数は10,976でした。

閑話休題、『憎まれ役』(野中広務・野村克也著、文春文庫)は、野中広務、野村克也という骨のある二人の考え方が率直に述べられているので、勉強になります。

「危機論――グローバリズムに屈した野球と政治」については、「●野中=巨人軍と自民党の凋落には同一の原因がある。●野村=野球は勝つだけでいいのか」という具合です。

「リーダー論――小泉と長嶋 人気支配の落とし穴」は、「●野中=眩しすぎる光は人を誤った道に導く。●野村=パフォーマンス男はリーダーに向かない」。

「機会均等論――『這い上がり』だから言う、格差社会批判」は、「●野中=順調にきた男には想像力が足りない。●野村=どんな人間にも一日は24時間しか与えられない」。

「戦略論――負けない野球、負けない政治」は、「●野中=すべての政治は『負けない』ことから始まる。●野村=弱者が勝つには無形の力に頼むしかない」。

「組織論――V9巨人軍こそ、日本と自民党の理想だった」は、「●野中=自民党はファンを大切にした革新集団だった。●野村=巨人は、球界の紳士でなくなった」。

「人材論――地位に恋々とせず、すべてを擲つ」は、「●野中=小泉氏と同時代にバッチをつけていたくない、それが引退の真相だ。●野村=人の値打ちは失敗から立ち上がるかどうかで決まる」。

とりわけ印象深いのは、小泉純一郎はアメリカの手先に過ぎなかったという、野中の痛烈な小泉批判と、野村の逆境期を支えた恩人が草柳大蔵だったという事実です。

「一体、小泉改革とは何だったのでしょうか。キャッチフレーズはたしかに上手でした。私が悪戦苦闘して小泉政治に反対しても、いったん抵抗勢力というレッテルを貼られると逃れようがありません。悪役・憎まれ役になってしまい、私が反対すると、却って小泉さんのいう事が正しいように見えるという不思議な現象がおきていました。・・・しかし、誰かが反対をしておかないと、歴史を振り返れば、あのとき日本の政治家は何をしていたんだといわれます。戦前の政治家が、本気で軍部に反対しなかったこと、大政翼賛体制に抵抗しなかったことが、政党政治への大きな不信感を招いたことを考えれば、少々の悪役視には耐えねばならない、そう思いました。すでに「憎まれ役」は、慣れっこです」。

「市場原理主義という、アメリカからの輸入思想は、日本をブッ壊しました。小泉さんは自民党をブッ壊すとおっしゃった。その実は、日本を、日本の自然をブッ壊したのです。しかし、地方の崩壊に都会の人々は気づきません。・・・保守とは何なのでしょうか。自民党が代表してきた、日本の保守とは、一度壊したら二度と再建できないものは絶対に壊さない、必ず守るということではなかったのでしょうか。私は、自民党の若い政治家たち、ナショナリズムを標榜する元気のいい政治家たちに、選挙区に戻って、地方の荒廃を直視してほしいと思います。日本を、美しい国を守るためには、内をすべきなのか」。野中広務と小泉純一郎は私の好きな政治家だったが、このような野中の言い分を聞くと、小泉純一郎に対する見方が変わってしまいそうです(ただし、小泉の反原発は支持し続けます)。親の後ろ姿を見ながら育った小泉進次郎の最近の言動も、私の見方に少なからず影響を与えています。

「(南海の)監督を解任され、24年間在籍した南海を追い出されるような格好で、ロッテに移籍しました。このころ面識を得たのが、評論家の草柳大蔵さんです。・・・南海を追い出された私は、四面楚歌の状態でした。・・・私は、草柳さんとの出会いで、人生観が大きく変わりました。ご自宅にうかがって食事をしながらの話は、歴史、政治、経済、科学、国際問題、文学・・・と多岐にわたり、聞くことすべてが驚きで、無知を再認識しました。『野村君、本を読みなしよ。ちょっと来なさい』と言われて2階に連れて行かれました。そこは書庫で、まるで図書館のように本がいっぱい並べられていました。その中から、『これを読みなさい』と言われて渡されたのが、安岡正篤の『活学』という本でした」。私も、若い時分、草柳の著書を何冊も読み耽り、大いに刺激を受けたことを、懐かしく思い出しました。

「(その後、悩んだときも、草柳さんの)アドバイスで、気が楽になりました。その間、あらゆる本を読んで勉強し続けました。が、本を読んでも記憶には残りません。ところが、本で読んだ知識は頭のどこかに残っているらしく、話している何かの拍子に出てくるものなんですね。引退してからの9年間に、いろんなジャンルの本を読みました。私が格言をよく引用するのは、そのころの読書の蓄積です。・・・監督になってからも、選手に人生教育や社会教育をするにも、読書体験がとても役に立ちました。こんな自分の経験があるので、野球バカにならないためにも、本を読むように、選手たちに勧めているんです。『人生の半分以上残っているのに、クビになってから慌てるな。クビになったあとのことを想定して、今日を生きるべきだ。そのためには、とりあえず、本を読め』と」。