榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

メスに寄生し、放精後はメスに吸収されてしまうチョウチンアンコウのオス・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1946)】

【amazon 『生き物の死にざま』 カスタマーレビュー 2020年8月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(1946)

この時期、我が家の庭を訪れる常連は、ミンミンゼミ、アブラゼミ、アゲハチョウ、アオスジアゲハ、ツマグロヒョウモン、ヤマトシジミです。アブラゼミの雄(写真1)、雌(写真2)、ニイニイゼミ(写真3、4)、ツクツクボウシ(写真5、6)の抜け殻、オオカマキリ(写真7、8)をカメラに収めました。

閑話休題、『生き物の死にざま』(稲垣栄洋著、草思社)では、29種の動物の死が語られています。

とりわけ興味深いのは、セミ、カマキリ、チョウチンアンコウの死です。

「『セミの命は短い』とよく言われる。セミは身近な昆虫であるが、その生態は明らかにされていない。セミは、成虫になってからは1週間程度の命と言われているが、最近の研究では数週間から1カ月程度生きるのではないかともいう。とはいえ、ひと夏だけの短い命である。しかし、短い命と言われるのは成虫になった後の話である。セミは成虫になるまでの期間は土の中で何年も過ごす。・・・ただし、セミが何年間土の中で過ごすのかは、実際のところはよくわかっていない」。

「夏を謳歌するように見えるセミだが、地上で見られる成虫の姿は、長い幼虫期を過ごすセミにとっては、次の世代を残すためだけの存在でもある。オスのセミは大きな声で鳴いて、メスを呼び寄せる。そして、オスとメスとはパートナーとなり、交尾を終えたメスは産卵するのである。これが、セミの成虫に与えられた役目のすべてである。繁殖行動を終えたセミに、もはや生きる目的はない。セミの体は繁殖行動を終えると、死を迎えるようにプログラムされているのである」。

「カマキリは春に卵からかえって夏に成長し、夏の終わり頃が交尾の季節となる。この季節になると実際に、カマキリのメスは交尾にきたオスを食べることが観察されている。この生態を広く世に紹介したのが、昆虫記で有名なファーブルである。ファーブルの詳細な観察によって、カマキリのこの恐ろしい生態が詳らかにされたのだ。・・・ただ実際には、カマキリのオスがメスに捕えられて食べられることは、さほど多くはないようだ。多くの場合は、オスはメスから首尾よく逃れて生き延びる。ある調査によれば、オスがメスにつかまる割合は1~3割程度だという。しかし、それだけの割合であっても、オスがメスに食べられてしまうリスクがあるということなのだ。交尾を成功させなければ子孫を残せないとはいえ、交尾に対するオスの執念はすさまじい。運悪くメスにつかまっても、オスは決して交尾をやめようとはしないのだ。交尾をしている最中でも、食欲旺盛なメスは、捕えたオスの体を貪り始める。しかし、オスの行動は驚愕である。あろうことか、メスに頭をかじられながらも、オスの下半身は休むことなく交尾をし続けるのである。何という執念だろう。何という壮絶な最期なのだろう」。

「カマキリのメスにとって、卵を産み残すこともまた、壮絶な仕事である。卵を産むためには、豊富な栄養が必要となる。食べられたオスは、メスにとっては、この上ない栄養源となるのだ。実際に、オスを食べたメスは、通常の2倍以上もの卵を産むという」。

「寄生虫のように(メスの)体についていた小さな小さな生き物は、あろうことか、チョウチンアンコウのオスだったのである。・・・チョウチンアンコウのオスとメスでは、サイズが違いすぎる。メスは隊長40センチメートルにまで成長するのに対して、オスはわずか4センチしかないのである。これでは、まるで同じ種類の魚とは思えない。発見者が寄生虫と見間違えたのも無理からぬ話だ。しかも、チョウチンアンコウのオスの奇妙さは、小さいことだけではない。その生態も奇妙である」。

「チョウチンアンコウのオスは、メスの体に噛みついてくっつき、吸血鬼のようにメスの体から血液を吸収して、栄養分をもらって暮らすのである。本当に寄生虫のような存在なのだ。チョウチンアンコウの小さなオスは、メスの灯す明かりを頼りにメスを見つけ出す。闇に包まれた暗い海の底で暮らすチョウチンアンコウのオスにとって、メスを見つけ出すことは容易ではないし、見つけたとしても暗い海の底ではぐれることなく泳ぐのは難しい。そのため、メスの体と癒着してしまうのである。・・・メスの体についたオスは、メスに連れられていくだけで、自分で泳ぐ必要はない。そのため、泳ぐためのひれは消失し、餌を見つけるための眼さえも失ってしまう。それだけではない。メスの体からオスの体に血液が流れるようになれば、餌を獲る必要もないので内臓も退化する。そして、メスの体と同化しながら、子孫を残すための精巣だけを異様に発達させていく。価値あるものは、精巣だけというありさまなのだ。まさに、精子を作るためだけの道具と成り果ててしまうのである。チョウチンアンコウのオスは、受精のための精子を放出してしまえば、もう用無しになる。もはやひれもなく、眼もなく、内臓もない体である。そして『ずっと、一緒』と約束したオスは、静かにメスの体と一体化してゆくのである。・・・深い海の底でチョウチンアンコウのオスの体は静かに消えゆき、その生命も静かに閉じてゆくのである」。なぜか、心がザワザワ、体がムズムズしてきました。