榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『大家さんと僕』は漫画だが、しみじみとしたエッセイの趣があります・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1994)】

【読書クラブ 本好きですか? 2020年9月29日号】 情熱的読書人間のないしょ話(1994)

けたたましく鳴き交わす30羽ほどのオナガ(写真1~8)の群れに出くわしました。1時間近く粘った甲斐があり、若鳥たちが親鳥から口移しで餌をもらうシーンを目撃することができました。飛び交うアキアカネの雄(写真9~11)、雌(写真12~14)をカメラに収めました。

閑話休題、『大家さんと僕』(矢部太郎著、新潮社)は、86歳の大家さんのおばあさんと、38歳の間借り人・矢部太郎の日常を描いた漫画だが、しみじみとしたエッセイの趣があります。

例えば、「誕生日のサプライズ」――。「大家さんが電話機を買い換えられました」。・・・「よくかける番号を登録出来たりもするみたいですよ」。「へえ、じゃあ、矢部さん登録しようかしら」。「登録しました!」。「次は同級生の・・・ああこの人は施設に入ったから登録しなくていいわ」。「えーと、この人は痴呆になってて、この人は死んでしまったから登録しなくてよくて」。「はい」。「ちほう、ちほう、しぼう、ちほう、しぼう・・・」。「・・・もうやめましょう」。

「大家さんの誕生日」――。「長く座っていると、すぐには立ち上がれず立てなかったことをごまかします」。「行きましょうか・・・」。「夜はまだ寒いのよね」。「それはとてもかわいらしいです」。・・・「わー素敵! バラのお花」。「次のおでかけに着て行くわ!」。「あっ、パジャマです」。「気に入って頂けてよかったです! おでかけって、どこか行かれる予定あるのですか?」。「次のおでかけといったら・・・」。「三途の川よ~」。「まだ早いです!」。「冗談よ~ ほほほ~」。「でも勿体なくて、そういう時くらいしか着られないわ」。「いや、どんどん着てください・・・」。

「九州旅行」――。「松島素敵ですよね、この前行った時もよかったわ」。「いつ行かれたんですか?」。「たしか・・・国鉄最後の年だったから・・・」。「この前って国鉄時代ですか?」。「大家さんといると時空が歪みます」。

「綿あめとハレンチ」――。「よかったら読み終えたので・・・」。「大家さんは読み終えた本を貸してくださいます」。「古い思い出の作品もあれば最新の受賞作やベストセラーもあったり。お茶をしながら感想を話します」。「・・・けっこう性的な描写が・・・。大家さんがこれを・・・どうしよう・・・感想・・・」」。「後日」。「どうでした?」。「えっと、あの・・・えっと・・・」。「ハレンチよね」。「は・・・」。「ハレンチでした」。

心に沁みる一冊です。