榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

普通の浮世絵本では窺い知ることのできない江戸庶民の本音とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2042)】

【読書クラブ 本好きですか? 2020年11月16日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2042)

オナガガモの雌(写真1)、キジバト(写真2、3)、スズメ(写真4)、クロコノマチョウ(写真5)、ナガコガネグモの雌(写真6、7)、ジョロウグモの雌(写真8、9)をカメラに収めました。ヒレタゴボウ(アメリカミズキンバイ。写真10)、コセンダングサ(写真11)、ヤツデ(写真12~14)が花を咲かせています。セイヨウキヅタ(写真15)が蕾を付けています。

閑話休題、『浮世絵の解剖図鑑――江戸の暮らしがよく分かる』(牧野健太郎著、エクスナレッジ)では、浮世絵を通して、江戸時代の「物質的には裕福ではないが、平和で幸せそうな人たち」の生活ぶりを覗く楽しみが味わえます。

「浮世絵の、その中に隠されている謎やお江戸の洒落、庶民の知恵、江戸の人たちが面白がっていた遊び心を読み解きます」。

「浮世絵は読み解く絵画――浮世絵は、現在では高価な美術品のようになってしまいましたが・・・まるで現在の雑誌や写真集のように、まずは手に取ってながめて、それから中身を品評し、内容をネタにして楽しむものでした」。

●美人画は会いに行けるアイドル――「当時三美人」(喜多川歌麿)。「寛政年間に,通称『寛政の三美人』として有名になった1点です。蔦屋重三郎プロデュースのもと、天才・歌麿さんが町の娘さんを名前入りで描くと、江戸で評判になり、大当たり。吉原の芸者・富本流師匠の豊雛さん、両国の大きな煎餅屋の娘おひさちゃん、そして浅草寺前の水茶屋の看板娘おきたちゃん。もともと評判の娘たちでしたが、歌麿さんが美人画として紹介すると一躍シンデレラガールとなりました。今で言う会いに行けるアイドル、『あの子が店に出る』という日はファンが詰めかけ、行列のできる大騒ぎになったといいます」。

●五街道の整備で庶民にも旅ブーム――「東海道五十三次之内 戸塚 元町別道」(歌川広重)。「江戸は260年間、戦がない平和な時代。五街道と宿場も整備されて、気軽に移動できるようになりました。これにより庶民の間で伊勢参りや富士講などの寺社詣を目的にした旅が流行します。日本の大動脈・東海道も多くの旅人が行き交いました。日の出前に日本橋を出ると、日暮れ前にたどり着けるのが、ここ戸塚宿です。日本橋から約10里半(約42キロ)、東海道最初の宿泊地です。『こめや』の看板を掲げた旅籠の女将さんが旅人を出迎えています。旅籠では朝晩の食事、店によってはお弁当も用意してくれました。翌朝も日の出前に旅立ちます」。

●タブーを破った「天下の花見の図」――「太閤五妻洛東遊観之図」(喜多川歌麿)。「反骨の絵師・喜多川歌麿。奉行所から目を付けられていた歌麿さんが、投獄3日間と手鎖50日の罰を受けることになったのがこの浮世絵です。当時、浮世絵や芝居で実際のお武家を描くことははばかられ、ましてや神君・家康公はもちろん、先の天下人・豊臣秀吉を描くなどはタブー中のタブーでした。それなのに歌麿さんは、さらりと秀吉さんと姫君達の戯れの図を描きました。これには、当時の11代将軍家斉公の女好きまで連想させるよう意図して、きっちりと風刺してみせました。さすがにお上も激怒、実刑執行と相成りました」。

●お花見は婚活女子の勝負の場――「三囲神社の御開帳 向島の花見」(喜多川歌麿)。「お花見は江戸の一大イベント。なんせ木戸銭もいらない、垣根もないフリーな婚活イベントです。見染め見染められる特別なチャンスの場。シンデレラガールを夢見て、女性たちも精一杯着飾り、ここ隅田川堤などのお花見の名所に出掛けました。みな楽しそうです。でもよく見ると笑いを堪えるように口元を手で隠す人、指を指して笑う人がいます。その目線の先には、桜を見上げた女性がお一人。視線は定まらず、隣の女性に手を引かれています。どうやらお酒を飲み過ぎたご様子。花よりお酒、これも江戸から続くお花見の伝統だったようです」。

●酉の市を遠目に怒る白い猫――「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」(歌川広重)。「猫が二階家の格子窓から外を眺めています。視線の先には浅草田んぼを行き来する参拝客の行列が続いています。今日は酉の市、商売の神様・鷲(おおとり)大明神を祭る鷲神社の祭日です。大きな熊手に商売繁盛と開運を祈願する大イベント。広重さんは、そんな酉の市の風景を江戸名所のひとつとして描きました。二階家の窓からは真っ白な雪化粧の美しい富士山、手前にはかわいい白猫。しかしなぜかこの猫くん、怒っているご様子です。平屋の多い時代に田んぼの中にある二階建てとなれば、江戸っ子には、タイトルになくとも新吉原と分かります。この猫の飼い主は新吉原の遊女です。床には豆熊手が転がって、部屋の主は酉の市帰りのご贔屓の旦那を迎えてお仕事中のようです」。この白猫は飼い主に無視され、拗ねて怒っているというのです。

普通の浮世絵本では窺い知ることのできない江戸庶民の本音満載の一冊です。