榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

幕末に開国を断行したのは、井伊直弼ではなく、松平忠固だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2064)】

【読書クラブ 本好きですか? 2020年12月8日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2064)

明けの明星(金星)が輝いています。イロハモミジ(写真2~6)が紅葉、ラクウショウ(写真7~9)が黄葉しています。

閑話休題、『日本を開国させた男、松平忠固――近代日本の礎を築いた老中』(関良基著、作品社)には、驚くべきことが書かれています。

著者は、幕末に開国を断行したのは、井伊直弼ではなく、松平忠固(ただかた)だと主張しています。「歴史的事実として、徳川政権の閣内にあって、ペリー来航の当初から交易通商を声高に主張しつづけ、交易の準備を進め、政敵たちと熾烈な闘いを繰り広げ、そして最終的に日米修好通商条約の調印を断行した人物は、井伊直弼ではなく、松平忠固なのである」。

さらに、日米修好通商条約が「不平等条約」だったというのは虚構だというのです。「従来のステレオタイプな『明治維新』という物語においては、外交能力の欠如した『幕府』が、列強に強要されるまま、関税自主権がなく、治外法権を認めるという不平等条約を強要された、と説明されてきた。そして、明治維新によって成立した近代国家は、血のにじむような努力のすえ、ようやく『幕府』の負の遺産である不平等条約の改正を成し遂げた、とされてきた。・・・これは、明治政府がでっち上げたものであり、『明治維新』の正当性を国民に刷り込むうえで、根幹をなす『神話』だった。・・・開国を推進した松平忠固は、強要されて仕方なく条約を結ぼうと考えたわけではなかった。自ら進んで交易通商を進めることで、日本の繁栄を勝ち取ることができると考え、長期的な視野のもとで、周到な準備をしながら、主体性をもって開国策を立てていた。さらに、日本がアメリカと結んだ通称条約は、『不平等』なものではなかった。当初の条約においては、関税自主権も明確に存在したのである。日米修好通商条約において、日本に関税自主権がなかったという教科書の説明は、端的に言って『嘘』なのである」。

●井伊直弼が天皇の勅許に拘り躊躇したため、松平忠固は井伊の同意なく全責任を負って開国を断行したこと、●徳川斉昭、井伊直弼という強力な対立者と粘り強く闘ったこと、●老中を罷免された後、養蚕業を推進し、海外輸出の地盤を固めることによって、日本経済の礎を築いたこと、●松平忠固が幕末史から抹殺されたのは、明治政府にとって、明治維新を神話化し、幕府は無能であったと主張する上で、開国を断行した松平忠固の存在は目障りだったこと――が、実証的に分析されています。

開国を断行した松平忠固を無名のまま埋もれさせてはいけない、彼に対する誤解を放置しておけないという著者の熱い思いが籠もった、説得力のある一冊です。