榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

世田谷一家殺害事件の被害者の姉が編んだ一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2085)】

【読書クラブ 本好きですか? 2020年12月28日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2085)

ツグミ(写真1、2)、ヒヨドリ(写真3、4)、シジュウカラ(写真5、6)、メジロ(写真7、8)をカメラに収めました。

閑話休題、2000年12月30日深夜に発生した残虐な世田谷一家殺害事件は、今なお、私に衝撃を与え続けています。『悲しみとともにどう生きるか』(柳田邦男・若松英輔・星野智幸・東畑開人・平野啓一郎・島薗進・入江杏著、集英社新書)は、この事件の被害者の一人である宮澤泰子の姉によって編まれた、悲しみとともにどう生きるかを考える一冊です。

「『世田谷事件』を覚えておられる方はどれほどいらっしゃるだろうか? いまだ解決を見ていないこの事件で、私の2歳年下の妹、宮澤泰子とそのお連れ合いのみきおさん、姪のにいなちゃんと甥の礼くんを含む妹一家4人を喪った。事件解決を願わない日はない。あの事件は私たち家族の運命を変えた。妹一家が逝ってしまってから6年経った2006年の年末。私は『悲しみ』について思いを馳せる会を『ミシュカの森』と題して開催するようになった。『ミシュカ』とは、にいなちゃんと礼くんがかわいがっていたくまのぬいぐるみの名前。さまざまな苦しみや悲しみに向き合い、共感し合える場をつくることで、『ミシュカの森』を、犯罪や事件と直接関係のない人たちにも、それぞれに意味のある催しにしたい。そしてその思いが、共感と共生に満ちた社会につながっていけばと願ったからだ。それ以来、毎年、事件のあった12月にゲストをお招きして、集いの場を設けている。この活動を継続することができたのは、たくさんの方々との出逢いと支えのおかげだ。本書はこれまでに『ミシュカの森』にご登壇くださった方々の中から、6人の方の講演や寄稿を収録したものである」。

とりわけ心に沁みたのは、柳田邦男の「『ゆるやかなつながり』が生き直す力を与える」です。柳田は、被害者に寄り添う「二・五人称の視点」というものを提案しています。遺族という二人称の立場でも、私には関係ないという三人称の立場でもない、「二・五人称」の視点を持とうというのです。

「精神性のいのちは、肉体が消滅しても消えないで、人生を共有した人の心の中で生き続ける。それゆえに亡くなったあとも、残された人に、生き直す力を与えてくれたり、心豊かに生きる生き方を気づかせてくれたりするのだと思います。しかも、悲しみや辛い経験をしたことで、他者の悲しみや辛さを理解できるようになり、人とのつながりを広めることができるようになる。人は一人では生きられないといわれます。辛いことを経験した人も、人とのつながりを持つことで、生きていく力を取り戻すことができる。それは人間の精神性のいのちがあればこそだと思います。そして亡くなった人も、精神性のいのちが生き続けることで、これからを生きる人々をつないでいく、とても大事な役割を果たしてくれるに違いない。私はさまざまな出会いの経験から、そう思っています」。

次男を自死で亡くしている柳田だから、こういう境地に達することができたのでしょう。