榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

著者が提示する3枚のカードを見て、読者がどう判断するかを問われるクイズ方式の小説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2103)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年1月15日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2103)

ボタンの若木たちが藁で作った雪囲いで守られています。

閑話休題、『首里の馬』(高山羽根子著、新潮社)は、著者が提示する3枚のカードを見て、読者がどう判断するかを問われる、いわばクイズ方式の小説です。

第1のカード――。
主人公の未名子は、沖縄の、個人所有の小さな「沖縄及島嶼資料館」で、資料に対応したインデックスカードの整理と確認作業に取り組んでいます。やがて、資料館が閉じられることになり、未名子は、マイクロSDカードに移した、これまで蓄積されてきた沖縄に関するアーカイブをリュックサックに詰めて持ち出します。「この島の、できる限りの全部の情報が、いつか全世界の真実と接続するように、自分の手元にあるものは全世界の知のほんの一部かもしれないけれど、消すことなく残すというのが自分の使命だと、未名子はたぶん、信念のように考えている。これが悪事だというなら、いくら非難を受けても、なんなら捕まっても全然かまわないという、確かな覚悟もあった。そもそも未名子には今、あまり失って困るものがない」。

第2のカード――。
週に3、4日、オンラインで外国にいる外国人に日本語でクイズ問題を出すという仕事をしています。「たいていの問題は、ふたつかみっつの単語で成り立っている」。

第3のカード――。
「未名子は空気の入れ替えのために一階の窓を開けようと手をかける。瞬間、小さい悲鳴を飲みこんだのは、カーテンを引き開けた目の前、未名子の家の小さな庭にいっぱいの、大きな一匹の生き物らしき毛の塊がうずくまっていたからだ」。突然、何の理由もなく、沖縄在来の馬「宮古馬(ナークー)」が出現したのです。

こういうクイズ的な小説が好みの人には歓迎されるでしょうが、こういうのは苦手だという向きは手を出さないほうが無難でしょう。