榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

部分拡大図によって、ブリューゲル作品の魅惑的なディテイルをたっぷりと愉しむことができる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2149)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年3月2日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2149)

デンドロビウム・キンギアナム(写真1、2)が咲いています。

閑話休題、『ブリューゲルの世界――目を奪われる快楽と禁欲の世界劇場へようこそ』(マンフレート・ゼリンク著、熊澤弘訳、パイ インターナショナル)は、私のようなピーテル・ブリューゲル1世の熱烈なファンにとっては堪らない一冊です。

部分核大図によって、ブリューゲル作品の魅惑的なディテイルをたっぷりと愉しむことができるからです。

●「バベルの塔」の部分――
「ピーテル・ブリューゲルが細密画家としての訓練を受けたに違いないことは、ロッテルダムにある『バベルの塔』バージョンの部分図からも明らかである。私たちは、構図の一貫性を失わせずに、建築や人間の行動の極めて小さな細部までも読み取りやすくしているこの事実に、ただただ驚嘆の眼差しを向けることしかできない。さらによく見ると、これらの細かいニュアンスが、実は非常に粗い自由な筆致で描かれている、という矛盾にも気づく」。

●「雪中の東方三博士の礼拝」の部分――
「降り積もる雪の中を歩く感覚をここまで完全に表現した作品は他にはない。寒さに耐えて服に包まり身をかがめながら村人は風と雪に耐えている。絵画層の最も表層部分に、その風と雪が白のアクセントとして力強く描かれている」。

●「死の承知」の部分――
「富める者にも貧しい者似も、老いにも若きにも、力のある者にも弱い者にも、死は皆にやってくる。ブリューゲルの『死の勝利』ほど、この時代を超えた真実が力強く、容赦なく視覚化されているものはほとんどない。うつむいている枢機卿が、骸骨によって地獄へと連れ去られる様子が描かれている。悪魔の優しそうなポーズと神父を待ち受ける運命との間の深い皮肉なコントラストは見事なものだ。硬貨のはいった樽は、物質的なものが価値を持たなくなったという事実を浮き彫りにしている」。

●「雪中の狩人」の部分――
「モティーフや形式を自由に用いた視覚的なリズムは、ブリューゲルの特徴的な技法である。この図では、意気消沈した狩人たちの姿が、人間同様に肩を落としている犬たちの姿にも繰り返されている。ブリューゲル作品にはよくあることだが、この狩人たちは後ろ姿で描かれている。顔の見えない人の姿によって、これほど多くの人間性を伝えることができる画家はほとんどいない」。

●「野外の婚礼の踊り」の部分――
「この部分には、信じがたいほどのエネルギーと『生きる喜び』が満ちている。両手を腰に当てて見せるような軽妙なポーズが非常に巧みに表現されている。対照的な色彩と官能的な身体表現は、根底にあるエロティックな刺激を高めている。その男が帽子の下から妖艶なダンスパートナーに見せている、ずるそうな目つきについても想像の余地はほとんどない。この二人がくっつくのかどうかが問題ではない。いつか、ということが問題なのだ」。この場面の女性の官能的に踊る姿勢は、私の胸を激しく揺さぶります。

この本に出会えた幸運に感謝したい気持ちです。