榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

アウシュヴィッツに送られながら生き延びたユダヤ人少女の自伝・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2226)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年5月18日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2226)

カンパニュラ・アルペンブルー(カンパニュラ・ポシャルスキアナ。写真1、2)、クレマチス‘ホワイト・プリンス・チャールズ’(写真3)、クレマチス・インテグリフォリア(写真4)、オオバギボウシ(写真5、6)、キングサリ・ヴォッシー(写真7)、ニワフジ(写真8)、シャクヤク(写真9)、エキノプシス・オキシゴナ(写真10、11)が咲いています。ソラマメ(写真12)が実っています。

閑話休題、『アウシュヴィッツを生きのびた「もう一人のアンネ・フランク」自伝』(エディス・エヴァ・イーガー、エズメ・シュウォール・ウェイガンド著、服部由美訳、パンローリング)は、アウシュヴィッツに送られながら生き延びたユダヤ人少女の自伝です。体験者でないと語れない強制収容所の苛酷な実態は衝撃的です。

「彼らは闇に紛れてやってくる。扉をドンドン叩き、大声で叫ぶ。・・・兵士たちは寝室に押し入ると、私たちは自宅を出て、どこか別の土地に定住させられると告げる。持っていける旅行かばんは四人でひとつだけ。・・・兵士たちはドタドタ歩き、銃で椅子をひっくり返す。急げ。急げ。・・・兵士が父の膝を蹴り、父は私たちの方へよろめきながら歩き、他の家族が待つ護送車に向かう」。

「(収容所の)外側のフェンスに近づく者は誰であれ、警告もなく撃たれる。私より少しだけ年上の少女が逃亡を試みる。その遺体は見せしめとして収容所の中央に吊るされる」。

「車両はこれまで乗ったどの車両とも違う。それは旅客列車ではない。家畜や貨物を輸送するためのものだ。私たちは人間という貨物だ。ひとつの車両に百人乗っている。・・・(列車が止まり、水を汲みに行った姉・マグダに)畑から出てきた男がポーランド語とドイツ語で大声で話しかけてきた。そして、その町の名を教えたあと、大げさに自分の首を指で切る仕草をしたのだった。『私たちを怖がらせようとしてるだけよ』とマグダは言う」。

「私たちの順番がくる。メンゲレ博士が指揮を執る。母を指差し、左側へと指示する。私は母につづこうとする。彼は私の肩をつかむ。『お母さんにはすぐに会える』と彼は言う。『シャワーを浴びに行くだけだから』。彼はマグダと私を右側へ押しやる。・・・(カポの少女は)遠くに並ぶ煙突のひとつから立ち昇る煙を指差す。『あんたの母親はあそこで燃えてる』と彼女は言う。『もう彼女のことは過去形で話したほうがいいよ』」。

「私たちは集団となり、水音だけ響く中、シャワーを浴びる。私たちは髪を奪われる。髪を刈られ、裸のまま、野外に立たされ、囚人服を待つ。カポとナチス親衛隊たちが私たちの濡れた裸の肌を眺めながら、侮辱的な言葉を矢のように浴びせる。言葉よりもっと悪いのはその目つきだ。彼らに睨みつけられる嫌悪感に皮膚が裂け、肋骨がバラバラになるかと思う。・・・もう何時間も裸で立たされている」。

「私たちはアッペルという点呼のために午前四時に起床し、凍えそうに寒い暗闇に立ち、人数を集計され、再集計された。その時間になると、あたりに肉の焼ける強い匂いが充満していた。・・・火葬場では、運の悪い囚人たちが火葬を待つ死体から金歯や髪や皮膚を収集させられた」。

「アウシュヴィッツでは毎日シャワー室へ行かされたが、毎回、不安で仕方なかった。シャワーヘッドから流れ出てくるものが、水なのか、ガスなのか、わからなかったからだ。自分たちに水が降り注ぐのを感じれば、安堵の息を吐く。・・・誰よりも恐れている男が扉のところに立っている、死の天使(メンゲレ)が真っ直ぐ私を見つめている。・・・彼は裸で濡れたままの私を従え、廊下を進み、机と椅子がおかれたオフィスに入る。私の体から冷たい床に水が滴り落ちる。彼は机に寄りかかり、時間をかけて私を眺める」。

「ある冬の朝、私たちはまた別の列に並んでいる。寒さが肌を刺す。私たちは入れ墨をされるところだ」。

「私なら牛の餌でも、干からびた茎でも食べる。眠っている部屋にネズミがちょこちょこ入ってくれば、少女たちは飛びつく。・・・飢えた者が死者の肉を食べるのを見ると、胃から苦いものがせり上がる」。

「ナチス親衛隊の将校たちが少年を木に縛りつけ、その足、手、両腕、耳を撃った――罪のない子どもが射撃訓練に使われたのだ。また、どういうわけか即座に殺されることなく、アウシュヴィッツに入れられた妊婦がいた。陣痛が始まると、ナチス親衛隊はその両脚を縛りつけた。私は彼女ほど苦しむ人を見たことがない」。

重い一冊です。