榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

江戸時代、歌舞伎は、庶民の、庶民による、庶民のためのエンターテイメントだった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2275)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年7月5日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2275)

雨上がりの公園は静寂に包まれています。リョウブ(写真1)が咲いています。フジ(写真2)が実を垂らしています。

閑話休題、『歌舞伎はスゴイ――江戸の名優たちと「芝居国」の歴史』(堀口茉純著、PHP新書)は、歌舞伎の歴史と魅力を知るのに最適な一冊です。「何れ様におかれましても、最後までご笑覧くださりますよう、隅から隅まで、ずずずい~っと、希(こいねが)い上げ奉ります」。

江戸時代、歌舞伎は、天下泰平を謳歌する庶民の、庶民による、庶民のための娯楽でした。歴代の市川團十郎を始めとする歌舞伎役者は、江戸の人々の憧れの的であり、他に類を見ないオリジナリティ溢れる文化の発信源でもあったのです。

「想像してほしい。江戸時代の歌舞伎は、体育館の窓を暗幕で閉め切って天井から少し光が入ってくる程度の薄暗さの中で行われていたのだ。しかも中には沢山の人がいて、飲み食いおしゃべりなどをしながら好き勝手に振る舞って始終ザワザワしていた。舞台から物凄く遠く離れた席だってある。見えにくい、聞こえにくいが当たり前という環境の中で、最前列の人にも最後列の人にもちゃんと芝居を楽しんでもらい、飽きさせないために、スタッフ役者一同趣向を凝らした。その結果、歌舞伎独特の演出が生まれたのだ」。

「歌舞伎は見物客を常に意識して改良を重ねた結果、世界に類を見ないオリジナリティ溢れるエンターテイメントとして発達したのである」。

「スピード感とスペクタクル感が江戸歌舞伎の身上である」。

「江戸時代の芝居見物は、見物客自身が見て聞いて楽しみ、時には掛け声で参加して、食べて飲んで、お金と時間をかけて非日常をエンジョイするイベントだったのだ。歌舞伎が娯楽の最高峰に君臨し続けたのも納得できる」。

「明治維新以降、歌舞伎は伝統化が進み、洗練され、高尚な芸術の域にまで達しています。庶民の娯楽であった歌舞伎のエッセンスと伝統芸能としての歌舞伎。その両方を享受できる現代の歌舞伎は、世界で一番贅沢な舞台芸術だと私は思っています」。

著者の熱い歌舞伎愛がひしひしと伝わってきます。