榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

科学的探偵・ソーンダイク博士のお手並み拝見・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2308)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年8月7日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2308)

鋭い目つきが気になります(笑)。

閑話休題、『ソーンダイク博士短篇全集(Ⅲ パズル・ロック)』(R・オースティン・フリーマン著、渕上痩平訳、国書刊行会)は、科学的探偵・ソーンダイク博士を主人公に据えた短篇集です。

例えば、著者が自選ベストとしている『砂丘の謎』は、こんなふうです。

「『君にかかると、言わずと知れたことみたいに単純だね。だが、いつもどうやって、こういう明白な事実を一目で見抜くんだい? たいていの人間は、この足跡を一瞥するだけでなにも考えずに通り過ぎてしまうだろうに』。『それは』と彼(ソーンダイク)は答えた。『習慣の問題でしかない。単純な外観の意味を洞察しようとする習慣さ。私は、ほぼ無意識にやるようになってしまったよ』。そう話しながら、私たちはゆっくりと進み、ふらふらと砂丘の端まで来てしまった」。

「『どうやってその土地だという結論に?』と私は聞いた。『主に』と彼は答えた。『服から落ちた砂の特性からだ。すべて同じ砂というわけではなかった。そう、アンスティ』と続けた。『砂は埃に似ている。どちらも大きな塊から分離した細かい断片からなる。部屋の埃は、カーペット、カーテン、家具の覆いなどの繊維から剥がれた粒子でできている。埃を顕微鏡で調べれば、こうした繊維の色や素材を確かめられるのと同様に、砂を調べれば、その地域にある崖、岩などの大きな塊の性質を判断できる。その破片は波で削られて浜辺の砂に取り込まれるからだ。あの衣服から採取した砂の一部には顕著な特徴がある。おそらく顕微鏡で調べれば、もっとよく特徴が分かるだろう」。『だが』と私は異を唱えた。『その推論は誤謬ありじゃないか? 一人の男が、異なる時に、異なる場所で、異なる服を着たのかもしれないじゃないか?』。『その点は確かに検討の余地ある可能性だね』と彼は答えた。『おっと、列車が来た。この議論は製粉所(仕事場の意)に戻るまでお預けだ』」。

「チョッキは砂丘砂にまみれ、浜辺の砂は含まれていなかった。シャツと下着から出てきた砂丘砂はわずかだった。つまり、背の低い男の服には浜辺の砂しかなく、背の高い男の服には砂丘砂しかなかったのだ」。

「ソーンダイクの説明を聞き、私は強い感銘を受けた。ただの憶測のように聞こえた結論は、判事の事件要点の説示と同じくらい慎重かつ公平な証拠の分析に基づくものだったとようやく気づいた。彼が即座にその結論を出した証拠の品々は、ずっと目の前にあったのに、私にはなにも分からなかったのだ」。

「ソーンダイクは手を止めて、小さな穴を熱心に覗き込んでいた少佐と私のほうを見た。『なにかあるね』と彼は言った。『コテの柄を触ってみたまえ』」というキャプションの付された挿し絵や、「砂丘の謎の解決に寄与したソーンダイクの顕微鏡写真2点」などが、読者に臨場感を味わわせてくれると同時に、大いに理解を助けてくれます。