榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

シリア内戦下、政府軍に包囲されたダラヤに秘密の地下図書館が存在した・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2321)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年8月25日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2321)

ツクツクボウシの雄(写真1)、サトキマダラヒカゲ(写真2)、オンブバッタの雌(写真3、4)をカメラに収めました。メマツヨイグサ(写真5、6)を撮影しようと近づいたら、花の中にヒメハナグモ(写真5、6)がいるではありませんか。アキノタムラソウ(写真7)、シュウカイドウ(写真8)が咲いています。カボチャの実(写真9)が育っています。我が家の庭で、漸く、矮性のアサガオ(写真10)が咲き始めました。

閑話休題、『戦場の秘密図書館――シリアに残された希望』(マイク・トムソン著、小国綾子編訳、文溪堂)は、シリア内戦下、政府軍に包囲されたダラヤに存在した秘密の地下図書館のドキュメントです。

政府軍に包囲され、攻撃され、破壊しつくされた街の地下に、蔵書1万4千冊の秘密図書館が存在できたのは、奇跡と言っていいでしょう。

「どんなに非人道的な爆弾ですら、ダラヤの人々の『希望』を打ちくだくことはできなかった。ダラヤが初めて、樽爆弾による無差別爆撃をあびたのと同じころ、前線にほど近い戦闘地域の地下室で、『秘密図書館』がひっそりと、しかし正式に開館した。検閲されていない、書物の宝の山がついにダラヤの人々に開かれたのだ」。世界に悪名をとどろかせ、後にシリア内戦の代名詞となった『樽爆弾』が、ダラヤに初めて落とされたのは、2013年12月下旬のことでした。

「何か月もかけて、焼け跡から救いだした、ほこりだらけのしめった本や、泥やがれきから拾いあつめた本が、かつての輝きを取りもどし、みがきあげられた書棚を飾っている。本を救出しつづけた(秘密図書館の創設メンバーの)バーシトは、(開館式の)喜びにあふれる人々の真ん中で、黙って立っていた」。

「地下の秘密図書館が人々に与えてくれるのは、爆撃の続く地上からの逃避や、退屈をまぎらわせられる時間だけではない。ここはダラヤの人々にとって、別の世界への『入り口』となるのだ。学びと、平和と、そして希望への。この日、ダラヤで新しい歴史が始まった」。

「地下室の図書館は朝11時に開く。イスラーム教徒の集団礼拝のある金曜日以外は毎日開館しているという。(14歳の)アムジャドは、狙撃兵からの攻撃をさけるため、一番安全だと思われる夜明けの時間を進んで、ここにやってくる。そしてみんなのために開館準備をするという。午後5時に閉館するまでの間、図書館にはダラヤの街中から毎日20~30人がやってくる。ここを訪れた人々は、つかのま、地上の危険から解放され、心静かに本を選び、読み、ときにはさまざまな情報を交換しあう。そしてしばらくするとまた、神経をとがらせながら、危険と隣りあわせの街へと帰っていくのだ」。

秘密図書館の創設メンバーのアナスは、こう言っています。「体が食べ物を必要とするように、魂には本が必要なんです」。

しかし、2016年8月、なんとか耐えぬいてきた秘密図書館との別れの時がやってきます。政府軍の命令でダラヤを退去し、遠く離れたイドリブ県に移住せねばならなくなったからです。政府軍に見つからぬように擬装したにもかかわらず、政府軍の兵士たちによって本が略奪されたことが、CNNによって報じられたのは、2016年10月6日のことでした。

「一番すばらしいと思ったのは、図書館の建物自体でも、何千冊もの蔵書でも、(図書館で行われた)豊富なプログラムでもない。本当にすばらしいのは、この図書館を作った人たち、人間だ。命の危険をかえりみず、本を救出し、本棚を作り、本を並べ、講座や読書会を開催し、蔵書を記録し、ほこりをはらい、床をみがいた人たちだ」という著者の言葉が、深く胸に沁みます。