警察が隠蔽しようとした桶川ストーカー殺人事件の真相に、遂に辿り着いた執念の取材ノート・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2395)】
植物に造詣の深い柳沢さんに問い合わせたところ、センニンソウ(写真1、2)の実と判明しました。ベニバナボロギク(写真3)の種が綿毛(冠毛)を付けています。ユーチャリス・グランディフロラ(写真4)が咲いています。
閑話休題、『遺産――桶川ストーカー殺人事件の深層』(清水清著、新潮社)を読み終わって、大きな溜め息が出ると同時に、感じたことが3つ。
第1は、警察が真面目に捜査しようとしない事件に粘り強く食らいつき、遂に、桶川ストーカー殺人事件の犯人と真相を突き止めた写真週刊誌記者・清水潔のジャーナリズム魂に脱帽。
「FOCUSは記事を載せ、警察は犯人を逮捕する。このように行きたいものだ。私は記者だ。記事にするために働いている。だがいったいどういう順番でコトを運べばそうなるか。それともやはり無理なのか。迷う」。
「『私が殺されたら犯人は小松』。そう言い遺して亡くなった詩織さん。涙ながらにそれを話てくれた(詩織の友人の)島田さん、陽子さん。身の危険を冒して協力してくれている(小松が経営する)風俗店関係者。そして私に振り廻されてばかりのカメラマン達。今ここで諦めたらすべては終り、苦労は水の泡だ。やっとの思いで見つけたこの場所は、実行犯久保田達を捕捉できるかもしれない最大のチャンスなのだ。このまま諦めてはいけなかった。ここが頑張りどころではないか」。
「『おい、俺らはついに警察より先に犯人にたどりついたぞ!』」。
「2000年度初めての発売号であるFOCUS1号を飾るタイトルは『桶川<美人女子大生刺殺> 本誌が掴んだ<実行犯>逮捕までの全記録――追い詰められたストーカー男』として、これまで溜めていた情報をぎゅうぎゅう詰め込んだ。この記事が出れば小松が逃げ出すのは明らかだった。どのみち我々の記事が出ようが出まいが、久保田が逮捕されたことを知った段階で小松の選択肢は自首するか逃亡するかしか残されなくなる」。
「1月12日、FOCUS3号が発売された。記事のタイトルは『桶川女子大生刺殺<主犯>を捕まえない埼玉県警の<無気力捜査>――事件前の対応から問題』。事情を知らなかったり、詩織さんの両親に接触できない他のマスコミからすれば信じられないような内容だったかもしれない」。
「今回のタイトルはそれでいこう。『今頃<指名手配> 桶川ストーカー男の容疑は<名誉毀損>――結局<主犯>は所在不明』。2週連続で上尾署には厳しい批判を浴びせることになった。図らずもキャンペーンを張れたというわけだが、この指名手配の影響力は大きかった。厳密には名前等非公開の指名手配だったのだが、小松和人の名前はマスコミ各社の判断の下で公開されていくことになった。上尾署の煮え切らない態度にマスコミも態度を決めたということのようだった。この夜のニュースから、テレビ各局で小松和人の名前と写真が流れ始めた。新聞でも翌朝小松和人の顔写真が出ていた。これならどこかで見つかるかもしれない。私の期待は高まった」。
「東京に戻ると締め切りが待っていた。『1億円の札束抱え桶川ストーカー男<沖縄→札幌→ロシア>必死の逃亡』というタイトルで、小松和人が(ロシア逃亡を目論んで)札幌にいること、非常に危険な状態にいることを盛り込んだ。どこもこのネタは掴んでいないはずだった」。
「電話を取ると意外な相手からだった。札幌のあのジャーナリストだ。突然彼はこう言った。『小松和人と思われる遺体が屈斜路湖で発見されました』。一瞬言葉に詰まった。頭の中で何かがグルグル廻っていた。なんだ、なんなんだこの事件は。どこまで私を驚かせるんだ。これではもう、(真相が)何も分からなくなってしまったではないか」。
「(2月)23日に小松和人の名誉毀損罪が被疑者死亡のまま起訴猶予となり、事実上。小松和人の刑事的責任についてはこれで幕引きとなった。ある意味予想通りだった。結局、上尾署は殺人事件はおろか一連の名誉毀損事件についても、和人の法律上の責任をまるで追及せずに、事件を終わらせたのだ。この結果を知ったら、詩織さんはいったいどう思うだろうか。あれほど和人のことを警察に訴え、証拠を集め、告訴までして、遺書まで書き遺していった詩織さんが、予想もしていなかった和人の兄を含む実行犯4名を逮捕しただけの結末を見たら」。
「(この事件を)きっかけに、国会は『ストーカー法案』立法に向けて動き始めた」。
第2は、親思いの21歳の女子大生・猪野詩織にしつこくまとわり付き、遂には殺してしまった小松和人の卑劣さに戦慄、激怒。
「(身長が180センチを超える)小松は絶叫していた。『お前は俺に逆らうのか。なら、今までプレゼントした洋服代として100万円払え。払えないならソープに行って働いて金を作れ。今からお前の親の所に行くぞ、俺との付き合いのことを全部バラすぞ』。知り合った頃の真面目で優しい小松からは信じられない振る舞いだった」。
「たまりかねた詩織さんが、別れて欲しいと小松に話を持ち出したのも一度や二度ではなかった。しかし、小松は納得するどころか別れ話のたびごとに脅しをエスカレートさせていった」。
「『お前の家を一家崩壊まで追い込んでやる。家族を地獄に落としてやる』。『お前の親父はリストラだ、お前は風俗で働くんだ』」。
「10月26日、『運命の日』がやってきてしまった。詩織さんは、大学に行くため家を出た。自転車で駅に向かい、大型ショッピングストアーのそばで自転車を止めた。12時50分。その日、彼女は怯え続けた日々を、死という形で終えた。彼女が何度もそう繰り返していたように」。
第3は、詩織の刑事告訴を軽視したことで殺人事件が起こってしまった失態を隠すために、事件の真相を隠蔽し続けた埼玉県警上尾署の悪質さに唖然。
「警察は名誉毀損の刑事告訴を取り下げさせようとした事実など、絶対に知られたくなかった。警察にしてみれば、『殺されてしまう』と上尾署に日参していた女子大生など話を適当に聞いていればいいだけの存在で、出来れば刑事告訴だって取り下げさせたかったのだ。取り下げさせることは実際には出来なかったが、だからといって捜査をしゃかりきになってやる必要もない。事実、『警察は全然捜査してくれない』と詩織さんも友人に洩らしているが、刑事告訴は受理したものの、捜査などろくにせずにすませてしまう。そんな状況で、助けを求めてきた女子大生が本当に殺されてしまったのだ、さすがに担当刑事も慌てただろう。これがバレたらどうなるか考えなくとも分かる」。
「(4月4日の新聞の一面の)『<告訴>調書、勝手に改ざん』という見出しのその記事は、上尾署の捜査員が詩織さんの告訴を単なる被害届に変えるため、調書を勝手に書き換えてしまったことを伝えていた。なんなんだそれは。私もそんなことまでは予想もしていなかった。県警は、告訴を取り下げさせようとしたことを隠しているものだとばかり思っていた。そのために嘘をついているのだと思っていたのだ。だが、実際に行われていたことは、はるかに悪質だった。調書を書き換えたというのなら、『告訴取り下げ要請』をしただのしないだのという話ではない。警察が勝手に取り下げてしまっているのだ。事件そのものをなくしてしまったということではないか。小松に対する捜査が進むわけがない」。
1ページ目から最終ページまで息詰まるドキュメントです。