榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「死ぬまで努力」、「死ぬまで読書」の丹羽宇一郎と、「死ぬまで将棋」の藤井聡太の対談集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2410)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月22日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2410)

我が家の庭の餌台は、常連のメジロ(写真1~5)、シジュウカラ(写真6~10)たちで、一日中、大賑わいです。

閑話休題、『考えて、考えて、考える』(丹羽宇一郎・藤井聡太著、講談社)は、63歳年の離れた同郷の友人、82歳の丹羽宇一郎と19歳の藤井聡太の対談集です。

驚異的な成績を挙げ続けている藤井の将棋に対する考え方が垣間見えます。

「美学などの感覚があることで、人間はAIと比べて、効率よく考えることができます。ただ一方で、人間の感覚が多くの場面で正しいとしても、常に正しいわけではありません。だからフラットに考えて、AIにとっての最善手などの『例外』を拾い上げることも、必要なことなのかなと思っています」。

「うーん、自分のイメージでは、研究者7、勝負師2、芸術家1という、7:2:1ぐらいかなと思います。基本的に『最善手に近づく』のが、勝ちに近づくのとほぼイコールなんです。もちろん勝つことが最終的な目標ですが、それを最初から意識する必要はないという考え方をしています。ですので互角以上の局面であれば、研究者としての自分のままでよくて、わざわざ勝負師として考える必要はないのかなと思っています。不利になったときに、最善手の近づくことと勝ちに近づくことのイコールが成り立たなくなります。そこで初めて、勝負師としての考え方が必要になると思います。勝負師として、ここからどうしたら勝てるのかと考えることになります。互角以上と思っていれば、そういう考え方は必要ないのかなと思います」。うーん、なるほど。

「人間には直感があるので、そういう言語思考のプロセスを挟まなくても、『パッと見える手』がやはりあるんです。ただそれをいったんおいて、言葉に置き換えてみることで、より思考が明確になると思うので、意識して行っています。『ここに指したいな』と直感的に思ったことを、『その理由はなんだろう』と改めて考えるんです。言語化して、直感の根拠を支えてあげるというイメージです。直感というのはすぐに言葉にできないけれど、なんらかの理由、方針に沿って導き出されているはずなんです。それを言葉にできれば、より考えがスムーズになるのかと思っています。そうして方針が決まったら、『相手はこの後にこう来るかもしれないから、そしたらこうしよう』と先を読んでいきます」。君は言語学者か!? それとも論理学者か!?

「やはり強くなることで、今まで自覚していなかった課題などがさらに出てきます。将棋というすごく奥深いゲームで、それを追究することには、終わりがないと思います。自分次第で、強くなれる余地はまだまだたくさんあると思います。ピーク年齢を想定はしていますけど、それは将棋を追究していくことに関しては、あまり関係のないことかなとも思っています。棋力のピークが20代というのは、これまでよくいわれていたことなんですが、でも今はAIから学ぶこともできます。読みのスピードは、若い頃のほうが上かもしれませんけれども、『大局観』や『考える力』は、年齢によらないものだと思います。そういう意味では、強くなる可能性は年齢と関係なく、常にあるのかなと思います」。

「AIの台頭によって、将棋界の今までの既存の価値観やあるいは『定跡』が、どんどん塗り替えられている段階なんです。それはある意味、新しい可能性が開けたというか、指し手の自由度が上がっているところなんです。それがけっこうプレーヤーにとっても、自分の特徴を出せるといいますか、すごくいい方向に行っているなと感じています」。この若さで、君には、もう大局観が備わっているではないか!

「AIによる『答え』だけを見て勉強して、それだけで強くなっていけるかというと、やはりそこはけっこう難しいところがあるのかなと思います。自分も今、基本的に研究はAIを使っていますが、指し手や形勢について、自分なりに解釈できることが大事かなと思うので、AIの示す読み筋、形勢判断、評価値に対して、自分なりに考えて判断しています」。

対談の中で、読書家として知られる丹羽が藤井に薦めた本、『歴史とはなにか』(岡田英弘著、文春新書)と『大作曲家たちの履歴書(上・下)』(三枝成彰著、中公文庫)を、私も読みたくなってしまいました。