榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

想像力とは、空っぽの脳から突然生まれるようなものではない・・・【山椒読書論(695)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月26日号】 山椒読書論(695)

21世紀を生き抜く「考える力」――リカレント教育・STEAM・国際バカロレア』(大前研一、ビジネス・ブレークスルー出版事務局編著、ビジネス・ブレークスルー)で、とりわけ興味深いのは、想像力を論じた部分である。

「想像力を育むには、方法論を教えるというよりも、事例をたくさん学ぶことが大切だと私は考えています。事例を吸収することで、さまざまなビジネスの可能性に気づくことができるからです。例えば、ウォルト・ディズニーがオキチョービー湖で泳いでいるワニを見て、未来都市をイメージしたテーマパーク『エプコット』のコンセプトを思いついたというようなエピソードを生徒に話します。・・・ディズニーは50歳を超えても、想像力に加えて、成功するという意志と、ビジョンを達成する力を持っていました。私はこれが、クリエイティビティのあるべき形だと考えています。人によっては、白昼夢に過ぎないと言うかもしれません。しかし、ビジネスの想像力と白昼夢はまったく異なるものです」。

「ビジネスにおいて想像力は、実現しなければ意味がありませんし、実現できるものでなくてはなりません。だからこそ、実現した事例を数多く知ることが重要になってくるのです。ヤマハの創業者である川上源一のエピソードなども、非常に示唆に富んでいます。川上源一は、戦後の非常に貧しい時代に、日本人全員がピアノを弾けるようになる世の中を想像しました。・・・じつに素晴らしい想像力だと思いますし、素晴らしい実行力だと思います。このような事例を次々に吸収することによって、人は影響を受けます。未来の捉え方や、自分のやりたいことの捉え方が変わるのです」。

「クリエイティビティとは、本質的に知識を通じて獲得できるものだということですよね。想像力とは、空っぽの脳から突然生まれるようなものだと考えている人は少なくありません。あるいは真っ白なキャンバスに絵を描くようなものだと。でも、それは誤解です。クリエイティビティとは大部分において、自分が探求しようとしている分野について深く知ることから生まれるものです。知識を通じて、何が成功しやすく、何が失敗しやすいのかという直感を得ることができますし、自分の行動の選択肢を増やすことにもつながります。ただ一点、注意したいと思うのは、成功事例だけに目を向けるべきではないということです。私にとっては、『常に成功するとは限らない』ということを認識するのも、イノベーティブであること、クリエイティブであることの一部だからです。間違い・失敗はほとんど避けられないものですし、それもイノベーションのプロセスの一部です。したがって、イノベーションを起こそうと思うなら、失敗も受け入れなくてはなりません」。