自動翻訳時代に英語学習は必要ないか・・・【山椒読書論(693)】
『AI時代を勝ち抜く学び――これからの社会に必要な視点とはなにか?』(大前研一、ビジネス・ブレークスルー出版事務局編著、ビジネス・ブレークスルー出版)で、とりわけ興味深いのは、自動翻訳時代に英語学習は必要ないかと問いかけた部分である。
「皆さん、自動翻訳は使われていますか? Google翻訳は、意外と多くのビジネスパーソンは使っているのではないでしょうか。また、DeepLという翻訳ソフトは、本章執筆中の現在、Googleをしのぐ性能です。日本語で文章を論理的に書くことさえできれば、ほぼ正しい英語が出力されます。Gmailにも翻訳機能が実装されています。英語が苦手でも、英文メールもクリック一つで日本語で読めます。海外旅行に行っても、英語で書かれた看板・標識・メニューなど、Googleレンズ機能でスマホのカメラ越しに見れば、即座に日本語で読むことができます。もう英文ライティング力・リーディング力は、自動翻訳で、仕事の現場においても、かなり代替できる時代になってきたわけです」。
「スピーキング・リスニングに関連する技術はどうでしょうか。音声翻訳も、近年の進化には目を見張るものがあります。こちらもGoogle翻訳をはじめ、様々なアプリや機器が日々進化中です。この原稿を執筆している2022年2月、AI通訳機『ポケトーク』ブランドが、発売元のソースネクスト社から分社化するというニュースが飛び込んできました。ポケトークは発売から4年でシリーズ累計台数100万台が目前のようです。本当に、技術進化により、英語が苦手な人でも心配が減る、良い世の中になったものです。周りを見回しても、自動翻訳をもう手放せない!という人が増加しているように思います。今後、自動翻訳の世界にAIがますます導入されると、進化のスピードも指数関数的に早まるでしょう」。
「AI翻訳の進化速度は不確実ですが、現時点でこれからやるべき英語学習について言えそうな結論を先に言いますと、以下の3点です。
①中途半端な英語力は、もういらない。英語は高度のレベルまでやるかやらないかの選択。
②AI代替されやすい『読む・書く』学習以上に、『話す・聞く』学習が重要。
③AIで代替されない英語での思考力、自国・異文化理解、人間的魅力を身につける」。
「自動翻訳による言語学習不要論は今後も出るでしょう。自動翻訳により、『自動翻訳で代替できる中途半端な英語力は不要』という点ではagreeです。しかし実社会では、AIや自動翻訳では代替できない場面は数多くあります。そんな現在と未来を生きる日本の子どもたちと日本にとって、数%でも良いので、複数の文化と言語をバックグラウンドとするバイリンガル・マルチリンガルが生まれてほしい、と思っています」。