許し難い女子高生監禁・強姦殺人事件は、なぜ起こってしまったのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2413)】
キダチダリア(コウテイダリア。写真1~3)、ベンガルヤハズカズラ(ツルベルギア・グランディフローラ。写真4、5)、マンデヴィラ(写真6)が咲いています。カシワバアジサイ(写真7、8)が紅葉しています。
閑話休題、時間が経過しようと、どうしても怒りを抑え切れない犯罪というものがあります。1988年11月25日から41日間に亘り、女子高生を監禁し、遺体をコンクリート詰めにして捨てた監禁・強姦殺人事件は、まさに、そういう許し難い犯罪です。
『かげろうの家――女子高生監禁殺人事件』(横川和夫・保坂渉著、共同通信社)は、少年たちが、なぜ事件を起こしたのかに肉薄したルポルタージュです。読むのが辛い記述の連続であるが、経過を辿ってみましょう。
●家庭内暴力で両親が立ちいれない聖域となった(少年)Cの部屋は、Cが高校中退した1988年9月ごろから、中学時代の先輩や後輩が集まる格好のたまり場となっていた。
●1988年11月25日の夜のことだ。(リーダーの)AがCの家に「今日は給料日だから金を持っているやつが多い。ひったくりに行こう」とやって来た。・・・午後8時すぎ、自転車に乗っている女子高生を見ると、Aは、Cに「あの女、蹴れ。あとはうまくやるから」と命令した。・・・Aは、女子高生を近くにある倉庫の暗がりで「おれはヤクザの幹部だ。おまえはヤクザから狙われている。セックスさせれば許してやる」と脅し、ホテルに連れていき強姦した。・・・2時間近く外をうろついたあと、Cの部屋に女子高生を連れこんだのは、夜中の1時を回っていた。・・・28日の深夜、女子高生は輪姦された。
●暴力団の(下働きという)アリ地獄から抜けられず、シンナーにおぼれていたAは。幻覚がいっそうひどくなっていた。
●輪姦があったあとの11月30日、Aは、女子高生の家から警察に捜索願いが出されるのを恐れて、女子高生を外に連れだすと、近くの公衆電話から母親と親友に電話をさせている。・・・じつは、女子高生は、少年たちの言いなりになっているように見せかけて、逃げるすきをうかがっていたようだ。少年たちが夜遊びに疲れ、Cの家で昼寝をしていたすきに女子高生は、2階から階下の居間に降りてきて110番したのだ。12月初めの午後4時ごろだった。だが、運悪く、近くで寝ていたAが気がついてしまう。・・・すぐに逆探知で警察からかかってきた電話には、Aが出て「なんでもない。まちがいです」と返事した。
●「110番したと知って、いままで仲の良かったように見せていたのが、全部だますためだと思って腹がたちました。裏切られたと思いました」。Bは、はじめて女子高生を殴った。・・・Aはライターのオイルを女子高生の足首にかけ、火を付けた。裏切ったらどうなるか、を教えるためだ。「すごい汗というか、すごい熱そうな顔してて、そういう表情を見てただけです。『おれたちは、おまえのことを助けてやったんだから、馬鹿な真似はすんなよ』って言いました。(女子高生は)どうもすいませんと言ってました」とC。肉体的なリンチだけでなく、精神的ないじめもくり返された。・・・「女子高生が、どう答えても、自分たちはあげ足をとったり、つっこんだりして、女子高生はどうしようもなくなっていた」とA。
●110番通報をきっかけに、少年たちは事あるごとにリンチをエスカレートさせた。
●監禁して2週間もすると、女子高生は「家に帰りたい」と言いはじめた。すると少年たちは、女子高生が帰宅したとき、家族に、どこで、何をしていたのかを言わせる練習を女子高生にくり返させた。
●リンチを繰り返すたびに、殴ることへの抵抗感が薄れていった。「だんだん女子高生を女の人と見なくなって、僕らとおなじ(仲間の)ように感じていたと思います。殴っても反応を示さなかったことも、女に見えなかったことに入ります」とB。12月中旬すぎには、小便で布団がぬれたことを理由にBとCが殴った。そこへAがやって来て、やけどの跡にライターのジッポオイルをかけ火をつけた。熱がって火を消そうとするのがおもしろいと、何度もくり返した。・・・やけどが化膿して、においが部屋に充満しはじめた。そのにおいがいやだと、Aは寄りつかなくなっていく。「ドアを開けただけでもアッという感じで、そのにおいが出てくるんで、もう行きたくないなあと。Bは怒っていたけど」とA。女子高生の見張り役にされたBとCは、暴力団の事務所当番もAから押しつけられ、不満がたまっていく。・・・女子高生が部屋にいることじたいが、憎しみの対象になっていく。
人間ではなくモノに見えて邪魔になってきた女子高生への暴力がエスカレートし、遂に、監禁から41日目、1月4日にリンチによって命を奪い、さらに、遺体をコンクリート詰めにして捨てるという戦慄すべき事件が起こってしまったのです。
なぜ、女子高生は逃げ出さなかったのでしょうか。「僕たちが『逃げたら家族を殺す』。この言葉で、女子高生は逃げられなかったのだと思います」という言葉が、Aが拘置所で書いた上申書に記されています。胸が掻き毟られます。
こういう犯罪を起こさせないために、私たちに何ができるかという重い問いを突きつけてくる一冊です。