榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

離婚後、有名小説家の愛人4号に収まった32歳の女性の性愛体験とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2438)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月20日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2438)

ジョウビタキの雌(写真1~3)、アオジの雄(写真4、5)をカメラに収めました。ソシンロウバイ(写真6~8)が咲いています。何名かの方から私の撮影助手(女房)についてお尋ねが寄せられたので、お答えします。収穫(野鳥などが鮮明に撮れた写真)があった日は共に喜び、シャッター・チャンスを逃したり、収穫がなかった日は共に残念がり、そして、私がデジカメで撮った写真より、助手がスマホで撮った写真のほうが出来がいい場合、ブログに載せたいから、その写真頂戴と言うと、快く差し出します。もらった写真は、どちらが撮ったか明確にしない方針を取っています(笑)。因みに、本日の歩数は11,880でした。

閑話休題、『恋愛中毒』(山本文緒著、角川文庫)では、32歳の女性が自らの過去から現在に至るまでの恋愛経験を、いや、恋愛経験というよりも性愛体験と呼ぶべきものを縷々、綿々と語り続けます。これほど、性愛への意識が日常生活のほとんどを占めてしまうというのは、私には、驚きです。普通ならば、このような話が際限なく続くと、途中で本を投げ出すところだが、この後どうなるのだろうかという好奇心に唆されて、一気に読み終えてしまいました。

水無月美雨(みなづき・みう)は、大学の同期生との結婚、離婚を経験後、50歳が近い有名小説家の愛人、それも、本妻、愛人1号、2号、3号に続く愛人4号に収まります。愛人1号にのし上がろうと策略を弄する一方で、かつての夫への思いは断ち切れていません。

「俺を見るな、と彼(=別れた夫)は言った。夫は顔をそらしたまま確かにそう言った。水無月といると見張られているような気がしてたまらないと。もう俺のことを見ないでくれと。どうすればよかったのだろう。そして、これからどうしていけばいいのだろう。先生(=愛人関係の小説家)は過去にもしもを持ち込むなと言った。けれど私は後ろを振り返らずにはいられない。どういうふうに人を愛すればうまくいくのか私には分からなかった。常にベストをつくしてきたつもりだった。なのに何故、私はこんなうらぶれた店で安いウィスキーなんかを飲んでいなくちゃならないのだろう。鳴らない携帯(=小説家からの)を見つめ、入ってくるはずのない人(=別れた夫)を待って」。

「ある日突然、夫が私に冷たくなった。夫が言うには、突然ではなく、長い時間をかけてだんだんと私に対する愛情がすり減っていったということだったが、私にはどうしてもそれが突然の出来事に感じられて仕方なかった。夫がある日、笑わなくなった。私の目を見なくなった。話しかけても返事をしなくなった。食事を外で済ませてきて、帰ってきたらすぐテレビも見ずに布団に入って眠ってしまうようになった。休みの日は黙ってどこかへ出掛けてしまうか、家にいてもまるでバリアでも張るかのように本ばかり読んで、話しかけても必要最低限の返事しかしなくなった。私はそれだけのことでパニックに陥った。何しろ身に覚えがなかったからだ。小さな喧嘩はいくつかあっても、そこまで拒絶されるような大喧嘩をした覚えはなかった。何をきっかけに夫がシャッターを閉めてしまったのか分からなかった。もちろん本人に尋ねてみたが『別に』という冷たい返事が返ってくるだけだった。それでも半年ぐらいは我慢した。気分の移り変わりの激しい神経質な人だから、原因は分からずとも、放っておけばそのうちまた機嫌がよくなるだろうと自分に言い聞かせた。けれど同じ家に住んでいる限り、どうしても毎日夫の不機嫌な顔を見なければならない。もともと無口な人だったが、さらにもっと口をきかなくなった。そんな夫と同じ屋根の下にいるのが苦痛でたまらなかった。どうしたら以前の穏やかな暮らしに戻れるのか、その方法がいくら考えても分からなかった。結婚生活も長くなると、お互い必要以上は口なんかきかなくなって家庭内離婚状態になると本や雑誌で読んで知ってはいたが、よく世間の人達はこんな不穏な雰囲気の中で平気で暮らしているなと私は改めて驚いた。気が狂いそうだった。いや、狂いそうではなく私はその時既に狂いはじめていたに違いない。どうにも我慢できなくて、かといって泣きわめいて夫の態度を責めたらもっと事態が悪くなりそうで、何とか冷静になろうと、私は一晩だけ家をあけることを思いついた。入籍してから六年余り、一晩たりとも夫のそばを離れたことがなかったので、それは一大決心だった」。

「先生のまわりの女を全て首尾よく追い払ったつもりでいたが、それは馬鹿な私の思い込みだったのだろう。・・・何もかも無駄だったような気がして、私は大きな無力感に箸を置いた」。

最後の最後に至って、美雨自身の口から驚くべき事実が語られます。

山本文緒の本は今回初めて手にしたのだが、山本作品をもっともっと読みたくなりました。